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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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257話 眠る者3

 城門を開けて踏み入れた先は大広間になっており、黒大理石の壁に床そして柱には、蜘蛛の巣状に金の装飾が走っており、高級感のある御伽噺のようであるが、それは決して主人公や姫が居るべき場所ではなく、さしずめ魔王でも待ち構えているかのようであった。

「不気味だな」

「金の装飾の比率が多すぎれば下品にもなるが、これは中々上手だと思うよ」

 正反対の感想を述べる紅蓮ぐれんと黒猫であるが、その視線は奥へと向けられる。

 大広間の奥は、玉座の間の様に数段分の階段で上がるようになって居るが、そこに玉座は無く、代わりに奥の部屋に続く扉が一つあるだけだ。

「あの先に居るようだね、異形の領域の構成は様々だけれど、広大な迷路でなくて助かったと思うべきだろうね」

「それより、星華せいか、気付いているか」

 紅蓮の言葉に、黒猫は笑う。

「ああ、気付かぬとでも思うたのか……ろくでもないものがみれそうだね」


 部屋のどこからともなく無数の人影が現れる。

 一つ一つの人影にこれといった特徴は無く、手には棒、刀、槍など、様々な武器を手にしている……その姿は……

「……顔の無い人形じゃねぇか」

 のっぺらぼうのような無地の顔、木製の手足に球体関節、只の人形に過ぎない筈のそれは蠢き出し……奥の部屋に続く扉を激しく殴り始めた


「何をしてやがる……」

 侵入者ではなく、奥に居る筈の輝夜を狙うような動きを見せる人形に、紅蓮が思わず声を漏らすと、黒猫が静かに語り出す。

「顔という物は個性を表すと言えるだろう、それが無い人形があの子を狙うのならば……これは彼女の苦しみを表すのだろうね」


 ……声が聞こえた。

「引き籠るな」

「苦しむふりを止めろ」

「普通の人はちゃんとやってる」

「お前より苦しんでる人が居る」

「子供みたいな真似は止めろ」

「苦しいのはお前だけじゃない」

「努力しろ」

 無数の声が飛び交い、その言葉に扉が軋み、悲鳴を上げているようだ。


「あれは……」

「彼女が言われた言葉、あれは大人達を表しているのだろう……彼女自身を見ようともせず、無責任に己の中の常識に当てはめ、その中に彼女を閉じ込めようとした大人達……顔が無いのも当然だ、彼女にとっての大人達の象徴、個としての誰かではなく、総意で苦しめる集団なのだから」

「だが……」

 言葉を返す紅蓮を、黒猫は黙らせる。

「大人達の言葉は正論ではある……だが他の誰かが苦しんでいるからといって、彼女自身の苦痛が軽減される事は無い」

「苦しみを受け入れろ、誰にも甘えるな……か」

「それを言った大人自身が、それを出来ているのか怪しいがな」

「……くそったれが」

「……同感だよ」


 紅蓮は大剣を構え、一歩踏み出す。

「私は、これを静観するような外道でありたくはない」

 黒猫の姿が変異し、人型に変わる。

「ようやくお出ましか」

「本質が実体のない霞の集合体であることに変わりはない、ある程度の物質的な干渉は出来るが、本体ほどでは無いな」

「それが問題になるのか」

 紅蓮の問いに星華は笑った。

「なるとでも思うか」


 紅蓮は大剣を軽々と振るい、人形を蹴散らしていく、人形は反撃の姿勢を取るが、その動きは素人そのものであり、戦闘技術を持つ紅蓮の相手ではない。

「所詮はただの人間の具現化って事か」

「ああ、只人に過ぎないさ、今の彼女なら魔術などに頼らずとも、組み伏せる事など造作も無いだろうね」

 自身に向けて振るわれる無数の武器を、事も無げに素手でいなしながら、星華が人形に軽く触れれば、球体関節が外され、あっさりと解体されていく。


 人形たちは容易く片付けられ、二人は扉の前に立つ。

「猫には戻らないのか」

「戻っても良いけれど……あの子は私と合いたいだろうからね」

「そうだな、あいつもお前だけは信じている」

 そう言われて、星華は静かに、ゆっくりと瞬きをする。

「この先ではさっきの人形よりも、更にろくでもないものが出てくるだろうね……行くかい」

「ああ」

 そして、彼女が待つ部屋へと二人は歩を進めた。

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