表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
262/292

256話 眠る者2

「……追うのかい」

 黒猫にそう問われ、紅蓮ぐれんは手にした大剣を背負う。

「あれが……あいつの願いなのか」

「少なくとも完全に偽りでは無い筈さ、だが、魔力の制御に長けている以上自分の本心を隠す事は出来るだろうね……いや、彼女自身、自分が何を望んでいるのか分かって居ないのかもしれない」

 無数の声が重なって響く黒猫の言葉に、紅蓮は一歩踏み出す。

「なら、聴きに行こう、数多の苦痛にかき消された本音を」


 黒猫は面白そうに空間に開いた亀裂の前に移動する。

「そうであるのなら、やってみなさいな、門は開けてあげよう」

 その言葉と共に黒猫の体から無数の触手が伸び、亀裂を扉へと作り替える。

「異形の領域は危険だ、亀裂に飛び込んで出口のない部屋に飛ばされてはどうしようもないからな、領域の主が定めた、正しい入り口に出るように調整してやる必要があるのさ」

 言い終わると黒猫は紅蓮を見やる。

「開けてはくれないか、今の私は猫なのでな、障子ならともかく洋風の扉を開ける手が無いのだよ」

「……言ってろ」

 呆れた様子の紅蓮が扉の奥に進むと、黒猫も後を追って飛び込んだ。




「これは……」

 扉を抜けるとそこは雪の降りしきる森の中だった、空には無数の星々が浮かび、奥には御伽噺の中で語られるような洋風の城があり、そこに至るまでの道は来客を拒むかのように茨が生い茂っている。

「御伽噺の城……彼女にはこの世界に来る前、私達の支配地の図書館で貸し出しの受付を任せていた……必要な仕事ではあるけど暇な時間も多くてね、彼女は人が来るのを待っている間はずっと童話を読んでいた……きっとその世界が今ここに反映されているんだろうね」

 黒猫が冷静に分析すると、紅蓮は意外そうに返す。

「童話か、読んでいる所を見たことは無いな」

「子供の様だと言われるのが嫌だったんだろう、私は好きだが、大人と言う者は往々にして子供らしいと言われるものを遠ざけようとするものだ……それがどんなに面白い物であったとしても」


 静かに語る黒猫は夜空を見上げる。

「見なさい、無数の星が落ちている……星が落ちる時、人の魂が天へと昇る、彼女が読んでいた御伽噺の通りだとしたら、この無数の流れ星は誰の為に落ちるのだろうね」

「お前は、誰の為だと思うんだ」

「誰の為だろうね、今も苦しみ続ける彼女自身の為かもしれないし、彼女が生きるために奪った命に対してかも知れない、それとも名も知らずにどこかで寂しく消えていく誰かの為かもね」


 黒猫は前足で器用に門とそこに至るまでの道を覆う茨を指す。

「物語であれば葡萄酒でも捧げれば避けてくれるかもしれないね」

「一体どこの物語だそれは……だが、そういうことなら」

 紅蓮は茨の前に立つと、小刀で自分の手のひらを薄く切り、滴る血を地面に溢す、すると魔法が解けたかのように茨が左右に分かれ、道がまともに通れるようになる。

「葡萄酒は血、パンは肉の代替品として神に捧げられる……詳細は地方によるが珍しい事では無い、吸血鬼の表現の一環としても葡萄酒と言われる事もあるし、分かりやすい謎掛けだったかな」


 少し進むと城はどんどん大きくなるように感じられ、門の前にたどり着いた時、黒猫はその前に幽雅に座って紅蓮を見つめる。

「この先に何が待っているにせよ、経験からして、ろくでもない光景であるだろう事は私が保証しよう、彼女自身も見られることを望んでいない領域であることは確かだ、それでも行くかい」

 紅蓮は黙って門の取っ手を掴む。

「分かって居る、それでも、彼女と、俺が俺である為に」

 そう言って扉を押し開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ