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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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255話 眠る者1

 紅蓮ぐれん輝夜かぐやの腕に包帯を巻く間、彼女は目を閉じて黙っていた。

「……随分と良くしてくれるね」

 手当が終わっても目を閉じたまま、彼女はそう問う。

「気まぐれに過ぎん、神の断片を器に、只人の魂を入れられた俺が、邪神の操り人形でないことを証明するための自己満足……」

「そう、それで良いんじゃないかな、自分の為、他に縛られないでそれを貫けるのなら」


「私は、時間の管理が出来ない……体感時間が壊れてるから、何年も前の事がさっき経験したように感じるし、昨日の事が何年も前の事にも感じてしまう、度を越してね」

 彼女は時間や期限を守れないと評価されていた、一日がどの程度の時間なのか、1時間とはどれだけなのかを理解出来ないが故に、それらを守ることなど出来なかった。

「あの人……星華せいかさんは、それを理解してくれていた、彼女の庇護下に置いてもらう代わりに私でも可能な作業をさせてもらってたけど、私の居場所はそこにしかなかった、家族には見放され、教師は無能だと言った」

「おい……」

「疲れて、起き上がれなくなっても、努力をしないといけないのかな。私は必死にあがいて、それでようやく普通の人間に合わせて生きているのに、普通はそれが最低限だからって理由だけでもっと上を目指さなければいけないんだよね」

 彼女は目を閉じたまま、顔を上げて遠くを見ている。

「お前は恵まれている、お前よりもっと苦しんでる人はいる、だから甘えるな……ずっとそう言われてきた、誰もが私を知らない世界に来ても、結局人と関わる以上それは変わらない」

 ようやく目を開き、彼女は遠くに沈む日を眺める。

「それでも、我慢しないといけないんだよね……それが人間だから」

 そう輝夜が言った時、小さな声が響いた。


「本当にそれで良いのかい」

 響いた声は、複数の人間が同時に喋っているかのようで、全ての声の調子があっているだけに妙な不安感を覚えさせる声だった。

「……誰」

「こんな状況で話しかけているんだ、大体誰かは分かる、そうだろう」

「星華さん……」

「まあ、正解と言っても良いだろうね、厳密には分霊体だが」

 暗闇から一匹の黒猫が現れる、正確には黒い霞が集まって猫を構成しているのだが。

「基本干渉はしないと約束はしたが……干渉の定義の解釈次第では問題ない程度なら関わってもいいだろう、基本的にはと言っているしね」

 そう言い訳した黒猫は輝夜を見て目を細める。

「何が言いたいの」

「何故自ら縛られる必要があるんだ、君が受けた束縛は皆、他者に押し付けられたものだろう。望みを手放してはいけない、願いに蓋をするべきでもない、自分がどうなりたいのか、どうしたいのか、強く願えば叶う場は整えたのだから……さあ、言ってごらん、君の望みはなんだい」

 静かな黒猫の言葉に輝夜は再び目を閉じた。


「私は……休みたい、何もしたくない、立ち上がる事すら苦しいのに前を向く事なんて出来ない……目を焼くような極彩色の景色から目を逸らし、私を駆り立てる人の声からは耳を塞ぐ……誰にも関わられずに静かな場所で眠って居たい」

 輝夜は両手を胸の前に組み、祈るような格好で崩れ落ちる。

「……感じる、真っ暗で夜の闇みたいな強い力を、これが……そうなんですね」

 輝夜の顔に包帯のような細長い白布が巻かれ、その目と耳を覆い隠した。

 白く大きな羽が何本も連なって居られたドレスのような服が体を覆う。

 そして細い荊がその体を傷つけないよう、優しく手足に巻き付いた。


 人の原型を残してはいるが、それでも一目で異形と分かる姿で輝夜は立ち上がる。

「おい、大丈夫か」

「落ち着きなさい、彼女の望み通り、最早声は聞こえておるまいて」

 輝夜は二人の言葉を聞いた様子も、二人の存在を認識した様子もなく、どこかを見る。

「眠る場所はここにある……おやすみなさい」

 その言葉と共に、空間に現れた亀裂、それに吸い込まれるようにして、輝夜の姿は消えた。


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