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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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254話 信者無き偶像2

 輝夜かぐや、そして紅蓮ぐれんの二人が近付くと、祭壇の炎が激しさを増して燃え上がる……その様は新たな獲物を見つけた獣の様であり、浄化の対象を見つけた狂信者であった。

「痛み、苦痛、恐怖、あれに呑まれた人たちは、かつて願われた様に、それらから解放されたのかな」

 輝夜の独り言に、紅蓮は首を振る。

「無理だろうな、炎の中の結晶に閉じ込められた魂は苦痛と共に燃え続ける事になるだろう」

「そう……天音あまねさんなら開放する為に戦うんだろうけど、私は自分の生活の為に壊すよ」

 その言葉に、紅蓮は少し意外そうに返す。

「死にたがりの言葉とは思えないな」

「まあ、生に縋りつく程生きたい理由は無いけど、自分から死にに行く程の理由も無いから……来るよ」


 篝火の祭壇を囲う鳥籠の頂点から伸びる、鋼の触手の一本が輝夜に向かって鋭く伸びる。

「思ったより早い……」

 ギリギリで身体を掠めたそれは、地面に軽く突き刺さると、直ぐに引き戻される。

 魔術による狂った体感時間の制御により、向かってくる攻撃をゆっくりと認識する事は可能な輝夜だが、身体能力は常人と大差ない故に、回避が追いつかない速度と範囲の攻撃に対処するのは不得手だった。

「大丈夫か」

 紅蓮の言葉に、輝夜は冷静に答える。

「早いけど地面への刺さりは甘いから貫通力はそこまで高くない、多分突き刺しは伸ばしてる最中に曲がれなくて直線にしか伸びない……ならなんとか」


 次の攻撃が伸びた、今度は外さぬよう、輝夜の胸を貫こうと伸びる触手に対し……輝夜は持っていた短剣を捨てた。

「おい!」

 ……紅蓮の声とは裏腹に、触手は止まっていた、輝夜が両の手を向かい合わせた空間、その狭間に捉えられたかのように触手の鋭い先端は動きを止め、それでも刺し貫こうと振るえている。

「予想よりは力がある……でも、捩じれろ」

 その言葉に応じて、触手の先端が捩じれ始め……そしてげた。


 痛みを感じているかのように、触手はのたうちながら戻っていき、捩じ切れた先端は力を失い地面に落ちる。

「念動力の類か……」

「私には狭い範囲にしか力を与えられなかったから、短剣を持ってるけど、金属の塊ならこっちのほうが良い」

 少しでも覚えられたらと星華せいかが残した魔術所を読み、一切術式を使わないものの中で最も破壊力があるものがこれであった。

 魔力を物理的に扱い、破壊する……輝夜には両手を向かい合わせた30㎝程度の空間にしか影響を与えられないが、それでも石を粉砕して砂に変える程の威力はあった。


「……次がくる」

 輝夜の視線の先には複数の触手が狙っており、返せる数では無かった。

「今度こそ仕留める気のようだな、どうする」

 その言葉を聞いて輝夜は瞬きを一つする、そして加速した体感時間の中で思案した答えをだした。

「一度でいいので攻撃を止めれますか」

「不可能じゃないな」

「ならお願いします、その間に終わらせますから」


 そして触手が動いた、全ての触手が輝夜を狙う、腕をもがれた復讐であるかのように。

「軽く言ってくれる」

 そう言いつつ紅蓮は、大剣を片手で一振りして触手を打ち払い、炎の蛇を生み出して触手を絡めとる。

「おい、長くは持たない、さっさとやれ」

 そう言った時には輝夜は既に本体に近づいていた。


 祭壇を囲う鳥籠の中に入り込み、燃え盛る炎の結晶へと向き合う。

 明らかな高温状態であり、輝夜の保護魔術では到底防ぎきれるものでは無い。

 ……だが、躊躇は無かった、最低限の保護を行うと炎の中に両手を突っ込み、結晶に手をかざす。

「捩じれ、砕け、崩れろ」

 ぴしり、とひびが入り、ガラスの様に砕け散る、同時に一瞬の間だけ風が吹き……そして消えた。

 あとに残ったのは炎を失った祭壇と地に倒れている輝夜だけであった。 

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