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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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245話 夜の闇7

 とよさんと背中合わせに立ち、それぞれの相手に向き合い、武器を構える……異形と化した人間は変異した肉体を破壊しても人型に戻り、そう簡単には死にはしない。魔力や思いを鎧のように纏っている為に、それが壊れる代わりに体に影響が出にくいそうだ……これは分かりやすくした例えであって、着ぐるみのように化け物の中に人間の体が埋まっている訳ではないらしいが。

 だが、それはあくまで肉体が大きく変異している場合だ、この老人は彫像に心臓を埋め込むことによって擬似的な生命を作る力を得ているが、それは自身の肉体を変質させるようなものではないだろう、少なくとも四肢は彫像に置き換えているようだが、恐らく本体は生身の人間のまま……つまり、首を刎ねればそのまま死ぬ可能性が高い。

「……息を乱さぬよう……刃筋を立て……目を逸らさず……」

 後ろでは豊さんが自身に言い聞かせるように呟いている、本物ではないとはいえ、己の憧れの対象、そして絶対的な上位者としてあの人の記憶が冷静さを揺らがせているようだ。


 覚悟を決め、踏み込み、巨大な釘を槍のように突き出す……一切の容赦のない心臓を狙った殺すための突きを、老人は容易く刀で逸らし、半身になって横に流す。目を流した刀に向け、老人は口を開く。

「恐ろしい……他者を想う心を隠し、純粋に死をもたらす為の技術を振るう……あの御方から学んだのですかな」

 その通りだ、自身の罪を正当化する事無く、ただ敵を見据え、殺す……どれほど相手に同情の余地があろうと、それが必要ならば揺らがない。そんな化け物じみた在り方を真似する事でしか、私は心を殺せなかった。

 言葉に答える事無く、再び釘を振るう、今度は首を狙って薙ぎ払ったが、素早く反応した右腕が打ち払い、流される。

 先ほどの防御もだが、少々不自然な動きだ、本人が認識する前に手足が動いて防いでいるかのような……いや、本当にそうなのだろう、彫像に置き換えられた四肢、それがほぼ自動で動き、対処しているのだ。


 真っすぐ突撃し、釘で払うと同時に、そのまま当身を狙う。

 容易く防がれ、刀の反撃が来るが、防御と比べれば甘いものだ、軽く払って足払いをかけ、全力で釘を叩きつける。

 非常に重い音が響いた、咄嗟に防いだ左手は砕けて石片と化し、老人は横に転がって、その勢いで起き上がる。


「……終わらせましょう」

 前に出ると同時に懐から抜いたナイフを投げ、そのまま老人の胴体を貫く。

 片手を失い、起き上がった直後で上手く回避できない体は、残った右腕でナイフをはじくが、それ故に、釘の刺突を防げなかった。

 巨大な釘が胸を貫通し、背中から飛び出す、間違いなく致命傷だ、魔術での治療であってもこの状態から救う事は不可能だろう。

「私は……」

「眠りなさい、偉大なる彫刻師よ」

 その体の動きが止まり、釘を持つ手に重みが加わる、私はそっと釘を体から引き抜き、その体を地面に寝かせた。

 そして背後を確認すれば、主を失ってなお、彼の最高傑作である最後の彫像は止まる事無く、豊さんとの戦いを続けていた。

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