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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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244話 夜の闇6

 多くの人々が眠りについた夜の街、運良く雪は降っていないものの、それでも身を切るような寒さの路地を駆け抜ける。

 震える手で握った方位磁針によく似たそれは、囮となったとよさんが持っている片割れの位置を指し示しているらしい。

 ……本来は私が囮を引き受けるべきなのだけど、顔が広く知られてしまっている為、人攫いの天使像に遠隔監視装置の能力があった場合、獲物として狙って貰えないだろうと言われ、その点あの人仕込みの幻影術で容姿を誤魔化せる彼女が囮を引き受けてしまった。


 石で出来ている筈なのに、空を飛んで移動している天使の像を追いかけ、町の片隅にある小さな屋敷にたどり付いた。

 空から降りて来た天使像は豊さんを抱えたまま、扉に近づこうとし、次の瞬間には動かなくなった。

 見れば、豊さんが何かしたようだが、抱きかかえたまま動かなくなった為、抜け出せなくてもがいている。

「あ、天音あまねちゃん、お願い、助けて」

「はい、危ないので動かないで下さい」

 転送術で取り出した巨大な釘を二振りし、彼女を抱えている石像の両肩を砕いて腕を落とし、開放する。

「空を飛ぶより、今の救助の方が怖かった……」

 そう言われるが、私が出来る方法で最も安全なのがこれなのだから仕方ないだろう。

「それは後で……来ましたね」

 周囲を囲う様に天使の像が現れ、私達に敵意を向けていた。

 ……武器は恐らく石剣なのだろうが、よくある刃の厚い両刃の直剣というよりは、あの人や豊さんが扱いに長けている薄刃の刀に近い見た目なのが気になるくらいか。


「石製の蓋が被せてあるけど、左胸に空洞部分があった……そこに凍傷になる程度の冷気を直接叩きつけたら動かなくなったから、そこに心臓が入ってるんだと思う」

「犠牲者たちの……」

 ……相変わらず私には守れないものが多すぎる……せめてあの人のように自分の手の届く範囲のものは守れるようにならなければ……

「天音ちゃん、殺す事を躊躇う必要は無いよ……心臓を無傷で取り出しても、それをもう一回体に埋め込んでも生き返る訳じゃないから……意思の無い化け物でも良いなら別だけど」

「ええ、分かって居ます……これ以上被害を増やす訳にはいきませんから」

 私は握りしめた釘で空を切って気合を入れる。その横で豊さんは石像に刃物は分が悪いと考えたのか、防御用の短剣を左手に逆手で握り、右手には冷気を集めているのか、白い靄が出ている。


 一斉に襲い掛かって来た天使像の群れに巨大な釘を叩きつける、先端は鋭く尖っているものの、実際には鈍器に近いそれは、大理石の体を容易に打ちこわし、動きを止める。

 横目で豊さんを見れば、石剣での攻撃を左の短剣で受けながら右手で石像の左胸を軽く打ったと思えば、それだけで石像は二度と動くことは無かった。

 ……結局、数は多い物の、個々の戦力は比較的大した事は無く、十分もかからず、その場には静寂が訪れていた。



「……私の芸術がお気に召しませんでしたか」


 声が聞こえた方を向けば一人の老人がそこにいた……だがその目は怪しく輝いているようにも見え、本能が警鐘を鳴らしているのが分かる。

「天使の姿の再現は見事だったと思うけど……生憎、私の御主人様は芸術が点で駄目でね……製作技法に関する知識以上は教えてくれなかったんだ」

 豊さんはそんな軽口を叩いているが、視線は一瞬たりとも老人から離されず、左に差した脇差しの柄に右手を添えている。

「大丈夫ですよ、私の芸術が理解されない事など百も承知です……人と同じ彫刻を作る事を望んだ私は結局一人の力でそれを成す事は出来ませんでした……ですが、あの御方が私を導いて下さったのです、偉大なる黒き光にて世界を導いて下さったあの御方が掲げた灯火が」

 その言葉に思わず後ずさりする、狂気に満ちた熱狂、その内容はすなわち……

「……残念ながら私は道半ば、あの日見たあの御方の輝きの全てを作品に表す事は未だ出来ておりません……ですが、あの御方のお傍に居たにも関わらず、あの輝きの意味を理解していないのであれば……私の作品があなた方を導けるかもしれません」

 

 そこにそれは現れた。

 白い大理石とは対照的に、漆黒の黒曜石で作られたと思えるそれは、私達が良く知る姿をしていた。

 神の気まぐれとも思える美しい容姿、眼孔に嵌められた紅玉の眼球……肌の色こそ黒い物の、あの人を模していることは明白であった。

星華せいかちゃん……」

 豊さんがそう呼べば、黒曜石の像は腰に差した匕首を抜き放つ、本体と同じ黒曜石で作られた刀身は非常に美しく、それを持った姿は本人にも近い迫力を感じる。


「さて、私もこの力を見せるといたしましょうか」

 そう言って老人も刀を持っている……よくよく見ればその腕は白く、先程まで戦っていた天使の像と同じものだと分かる……自身の体を彫刻に置き換えているのだろう。


「天音ちゃん、その人はお願い……私はこの像と戦うから」

 覚悟を決めた豊さんの言葉に頷く、彫刻家と像、そのどちらもかなりの力を感じる以上、どちらかを無視して一方を倒す余裕は無いだろう。

 老人に釘の先端を向ける……この人が受けた導きは、恐らく間違いでは無いのだろう、あの人はあの人としてこの世界に光を灯しただけだ……ならば私は私としてこの世界を照らすだけだ。

「彫刻家よ、あの人が灯した光、その導きは認めましょう……私はただ、人の法として、あなたを罰します」

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