24話 自由帝2
「こんなものですか?まだまだですね」
・・・解っていたけど異常だ、強すぎる。
一撃の重みが常人を遥かに凌ぐレベルだ。
訓練戦闘とは言え私の限界まで攻め込んでくる・・・これじゃあ木刀でもまともに食らえば危ない。
「流石はダンジョンマスターと言った所ですか」
「いや、別にダンジョンマスターとしての能力は殆ど使ってないよ」
ならこれは彼女の本来の強さか。
彼女は二本の木製のナイフを逆手に持って懐に入り込んで攻撃をする。
私は細身の刀でそれを防ぐが一向に勝てず何度も負けている。
それでも耐えれる時間は段々伸びて来る。
・・・彼女は明らかに人の力量を見分ける能力が高い、相手の力量、才能を把握しそれに合わせて限界ギリギリの強さで訓練を行う。
トレーニングも一見不可能だけど、本気でやって居れば何故か出来ているのだ。
そして個人のポテンシャルを最大限に引き出す訓練法で、その人の能力を最大限に伸ばすのだ。
・・・それは解っているのだが正直かなり辛い、限界まで体を酷使しないとついていけない為疲労がどんどん蓄積していく。
「取り敢えず休憩にしようか、そろそろ貴女も限界でしょうし」
・・・本当に限界ギリギリで彼女はそう告げた。
最初は宰相も不安そうだったが、段々と敵ではないと悟ったようだ。
彼女と共に浴場へと向かう。
「広い湯船ね、これだけの水をどうやって・・・」
「魔法回路を使っているようです、私も詳しくは知りませんから後で技術者を呼びましょうか?」
「いえ、構いません、ダンジョンマスターとしては自分で再現してみたいですから」
彼女の向上心は計り知れない、それを持ち続けるからこそ彼女は強いのだろう。
体を流す内に彼女が突然私に抱き着いて来る。
「結構筋肉はあるね、その上女らしい体つきだし」
「それは貴女もでしょう?」
「私の場合規格外扱いを受けてるから私を基準にするのは間違ってるよ」
苦笑交じりの発言は傲慢ともとれるが、彼女の事を見ると当然のものと思える。
女ですら誘惑するその体躯はスラリとしてなおバランスがよく、必要最低限の肉付きはその顔の美しさに引けを取らない。
「それに貴女も女としては十分すぎるほど美しいよ」
その言葉に私はそっと笑う、彼女は女性に好かれるタイプだ、女性の同性に反感を買われずに好かれるのは結構珍しい、個人的に女性は悪口が好きな所が少なからずあるからね特に嫉妬の対象となる同性には。
「まあ私は結婚しないと決めていますが」
「何故?」
「子供が出来ては厄介です、実力主義としてこの国を築くには世襲が起きてはいけません、もし私に子供が出来たら本人ではなく周りが黙っていないでしょう」
それを聞いて彼女はそれならと口を開く。
「私と一緒に居る?女同士なら大丈夫でしょう?」
「それって・・・」
「私は女好きです」
さらっと言われて私は驚く、こんなにも妖艶な彼女が男に興味がないとは。
「別に良いでしょう?何が悪いんですか」
「ただ驚いただけです、それが貴女なのならば構いません」
「なら貴女はどうする?少なくとも形式上はそういう事にしてしまえば厄介な求愛なども無くなるでしょう」
・・・・・・痛い所を付かれた、能力の無いもと貴族共が延々と私に求婚を申し入れている、それが玉の輿を狙ったもので、私自身に興味が無い事は確実だ。
「・・・それも良いかもしれませんね」
「まあ今決める事じゃないよ、それじゃあ上がるね」
そう言うと彼女は私の頬に軽くキスをすると浴場を出て行った。
「・・・ここに居たのですか」
屋上で相変わらず空を見上げていた彼女に声を掛けると彼女はそっとこっちを向く。
「どうかしたの?訓練は終わったけど」
「いえ、食事でもどうかと」
そう言って私は弁当にした昼食を取り出して彼女に渡す。
「・・・あ、海老」
「もしかして、食べれないのですか?」
「・・・はい、アレルギーがある訳でも苦手でもない筈なのですが何故か受け付けないんです、理由はあるはずなのに解らなくて」
なにかあるのだろう、それはもしかしたら記憶が無いらしい昔の事かもしれない。
「すいません、先に聞いておくべきでした」
「良いのよ、大体聞かれても問題無いと答えたと思うから」
私が箸を取り出すと彼女が言った。
「実は海老を誰かが食べるのを見る事も出来ないんです」
・・・もしかしてトラウマなのかもしれない。
「解りました」
その後二人で他のご飯を食べて休憩していると彼女が急に立ち上がった。
「どうかしたのですか?」
「ダンジョンに侵入者です、私に次ぐ実力者に任せていますが予定以上にここに滞在する事になりそうなので一旦戻ります」
「解りました」
「出来れば私が滅ぼした村などを理由に旅人や国民にあの付近に近づかないようにお願いする事は可能ですか?」
「問題ありません、そこに行く者をゼロには出来ませんが減らす事は出来ます」
それを聞いて彼女は頷く。
「お願いします、あとダンジョンの場所は教えていますが他の者が変な気を起こさないように一応見ておいて下さい、流石に貴女の仲間を殺したくはありませんから」
「勿論です」
私のその言葉を聞いて彼女は安心したように笑うと転移をしたのかその姿は消えた。
・・・まだ昼だが空には月が昇っている。
それを見ながら一時間ほどぼんやりしていると急に城壁の防衛設備が動き出す。
・・・敵襲か、暫く来ないと踏んでいたが自棄になっているのか?いやあの国に限ってそれは無い。
彼女はダンジョンマスターの数が最近増えたと言っていたがまさかあちらにも協力者が?
そう思うが直ぐにあり得ない事を悟る。
無理だ、あの国はこの国には既にない貴族や王族が国をまとめている帝国主義、そんな場所が自分の地位を危うくする可能性のある者を引き入れる訳が無い。
だがそれでいてなお今の皇帝は少なくとも軍師としては有能、兵を駒の様に使い捨てる人物だが、一切無駄な攻撃はしてこない。
なにかある、少なくとも何かの役に立つ、もしくは勝算がある筈だ。
そこで今いる屋上への唯一の扉が開き誰かが入ってくる。
「軍務尚書、この事態は何ですか?」
「帝国軍の攻撃です、すぐさま対処を」
「解りました」
そう言ってその場を移動しかけて不意に気付く。
・・・今までこちらの防衛設備の起動は敵の姿が見えてからだった、何故なら森を抜けて敵が来るため事前の察知が不可能なためだ。
それはこの屋上からなら見える筈である、それが今回は見えない、つまり本来解るはずの無い敵の進軍が解っていたという事だ。
そして防衛設備の起動権限は私と軍務尚書に一任されている。
もし敵の進軍が解ったことがこちらの密偵のした事なら私に報告が無いのはおかしい。
となるとこちら側に裏切者が居る事になる。
そしてその者の裏切りが判明して今回の進軍が解ったのだとするならばその報告が無い事もおかしい。
そしてこの対応、裏切者は他に居ない。
「・・・っ!」
気付いて身を投げ出すと今まで自分が居た場所に幅広のサーベルが振るわれる。
「軍務尚書、これはどういう事ですか?」
「俺は昔から帝国の者だぜ、能力さえあればここまで来れる実力主義だから良かった」
軍務尚書は元平民との事だったが間違いだったか。
「真に裏切るのは魔物じゃなくて人だというのは本当でしたね」
そう言って私は細身の刀を抜き、空中を左上から右下へと振り下ろす。
「軍務尚書、アルバート・ルキフグス、反逆罪により処刑します」
「さあて、お前如きに出来るかな?」
挑戦的な笑いにただ冷静に武器を構える。
・・・今までなら無理だろう、でも彼女のおかげで応対視力や反射能力が上がっているのが肌で解る、たった一度の訓練でここまで能力を引き出す彼女の能力には感心する。
そして今はそれに感謝しよう、戦う力をくれた彼女に。
「処刑は処刑です、逃がしはしません」
・・・軍が来る前に終わらせなければ。




