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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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240話 黄昏の記憶2

 「……まあ、こんなところか」

 一人呟き、展開していた術式を収束させ、余分な魔力を取り込み、周囲の空間への魔力干渉による悪影響を和らげる……気にするまでも無い事ではあるのだが、空間に対する魔力の濃度が高すぎる場合に起こる現象(魔物の自然発生等)を考えると注意する習慣を付けておくことに損はない……ここが天界である事を考えれば無駄な事なのだけど。

 難儀なものだな天音あまねの性格は……苦しむ者を見捨てる選択肢を切り捨て、醜いものに目を塞ぎ、言葉に耳を塞ぐことも拒むあの心はとても価値あるものだ……だが、それと同時にとても脆く不安定なものでもある。

 ……それがもし崩れたとしたらどのような異形に変わるか分からない、だが彼女が崩れることは無いだろう、崩れ去る程の価値を持つ何かを持たない私とは真逆に、崩れ去らぬための荷を背負うのが彼女なのだから。


「大丈夫ですか?」

 少女……ルナに問われて私は湯呑を手に取り、良く冷えた水を喉に流して微笑む。

「それなりに負荷はあったけど、そこまで疲弊するほどじゃないね」

「……」

 彼女の目は語っていた、それはどう考えても大した事無いと言えるようなものでは無いと。

 ……まあ、間違ってはいない、正直負荷は私の扱える術式の中でもかなり強いと言っていい、世界(どちらかというと領域に近い)を超えて魂を相手に憑依させたうえで、あの子の体にかかる負荷を私自身に回しているのだから、常人なら魔術の発動部分を抜きにした負荷だけで押しつぶされるだろう。

「まあ、私は頑丈だからね、少し休息は必要でも、問題にはならないよ」

「……そうですか」


「それで、貴女はこれから外がどのようになると考えているのですか」

「さて……ね、様々な可能性がある、だけど結局は異形と化した人間とどう付き合うかが問題になってくるだろうね」

 とは言っても、結局は二択になるだろう、共存か、それとも殲滅か。

「少なくとも人間の異形化は進むだろうね、そうなるように楔を抜いたし、魔術的な仕込みもある、ある程度は破壊をもたらすはずだけど、その後は変化と再生をもたらすだろうね」

 平和が続けば社会はある所で停滞する、平和であることの価値を人々が忘れることの無いように、今しばらくは動乱が続くべきだろう。

「貴女は……人が異形になる事をどう考えているのですか」

 ここ数日で私の知識の一部を身に着けた彼女の問いに私は言葉を返す。

「人の心の闇から生まれる呪い……天音はそう考えているだろうね」

「貴女は違うと?」

 その言葉に頷く。

「異形化は人の願いの現れだ、例え当初の願いからずれていたとしてもそれがその人の想いであることに変わりはない、歪みさえしなければその人が本当に生きたい姿で生きることが出来る筈なんだ」

 そうでなければならない、そうでないのなら、嘗て私を慕ってくれていたあの者達はただの怨嗟の産物になってしまうのだから。

「……私には分かりません、人を傷つけてまで好きに生きるなんて我儘です」

「どうだかね、まあ、それが正義か悪かに私は興味がないだけだよ、君にも分かる時が来るかもしれないし、来ないかもしれない、どっちでも構わないさ、どちらにせよ君が自分の望む自分で在れるならそれこそが価値だと私は考えるからね」

 そう言って私が彼女の頭を撫でれば、心地よさそうに目を細めた。

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