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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
14章 訪れた夜
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235話 夜の闇1

 命からがら逃げ戻ったと言う、明らかに狼狽した兵から報告を受ける。

 ……明らかに限界を迎え、地に崩れ落ちていた老兵が、炎を纏った化け物となって立ち上がり、魔物を殲滅した後に、次の獲物を指し示すかの様にこの国の方に剣を向けたと、彼はそう語っている。

 後半は主観が混じっているとはいえ、あの老人が魔に堕ち、暴走したという事には違い無いだろう。

「了解しました、これは私が直接出向くべきでしょうね」

 横で話を聞いていたとよさんにそう言えば、近くに居た官吏の一人が口を挟む。

「真実かも分からない話に何故貴女様が出られるのでしょうか」

「間違いであるかもしれません、ですが何か強力な存在が居た事は事実だと思われます、ならばそれなりの戦力を当てるのは当然でしょう」

 私が反論すれば、豊さんが静かに口を開く。

「そうですね、少し探ってみた所、通常よりも強い魔力の反応を確認しました、鎮圧を行うのであれば高い戦闘能力が必要であると思われます」

 何も言わないと思ったらそんなことをしてたのか、とんでもない技術だ。

「ですが、貴女様が居なくては誰が指示を下すのですか」

 その言葉に溜息が出る、あの人が変わる事を願った事はまさにそれであるのに。

「私が居なくても指揮は取れるようになっています、現場には最低限の指南書がありますし、私の仕事など認可印を押すだけでは無いですか」

 英雄などと祭り上げられても実態はそんなものだ、方針を見て、必要な書類に印を押す、それだけの仕事なら数日開けた程度で変わることは無い。


 反論を捨て置いて準備の為に部屋に戻れば豊さんも付いて来る。

「勿論私も付いていくよ、置いて行かれて延々文句を聞かされるのは御免だからね」

「申し訳ありません」

 気まずさに謝れば、彼女は首を振る。

天音あまねちゃんは悪くないよ、悪いのは全部の判断を人に任せて責任を負わないようにする人達なんだから」

 それだけ私が頼られているのは理解しているし、責任を負いたくないだけじゃない事も知っている、だが、あの人がそれをうとんでいた事も私はよく知っている。

「今回の相手は、貴女が足を渡したあの老人であると考えられます」

「うん知ってる、私が作った魔道具だからね、さっきはそれの反応を探知してみたの」

「そうでしたか……貴女はあの足を作った事を間違いだとは思わないのですか」

 私の問いに豊さんは苦笑して見せる。

「なんでそんな風に思わないといけないのかな、あの人が動けなかったらあの兵士は生きてないだろうし、それに……」

 言葉を切った彼女に問いかける。

「なんでしょうか」

「暴走して異形と化すのはそんなに悪い事なのかな……例えどんなものであれ、自分自身の感情に正直になった結果なんだし、それが本質的に悪だとは思えないから」

 その言葉に私は目を伏せる、暴走とは呼んでいても実際の内容が望みの具現化であるならば、それ自体が悪だとは断定できないのは事実なのだから。

「それでも……理性的に判断する事が出来ず、怒りに飲まれているのであれば、一度覚ますべきでしょう」

「……そうだね、今はそれで納得しておくよ」


 部屋に付いて準備をする、用意はすでにしてあった、医薬品、簡易治療具、携帯性の高い保存食、原始的な閃光手榴弾と簡易爆薬をどれでも簡単に取り出せるよう仕訳けられた肩掛けの小鞄を掛け、武器を取る。

 ……最後に振るったのは一月ほど前とは思えない程に手に馴染む感覚、ずっしりと重いが故に、振るう事に相手を殺す覚悟を求める点を気に入り手にした武器だが、今では腕力も付いた上、魔術の補助もあり、容易く振るえるようになった自分に冷たい物を感じる。

 だが、それでも再び振るえる事を喜ぶ己が存在することも確かであった。

 ……あの老人を止める為に戦うのだと言い聞かせる、私は人を救わねばならないのだから。

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