22話 外の世界
今私は一人で帝国へと向かっている。
皆は置いてきた、豊とアリーに任せてるから問題ない。
帝国までは百キロぐらいで非常に遠いが二日あれば可能な距離だ・・・大体時速二キロで不眠不休で二日だから時速四キロで行けば一日で着く・・・案外近いな、百キロと聞いたら遠いが問題なさそうだ。
分速70メートルで丸一日歩くか。
食料の調達や休憩も挟むから半日ぐらいは余裕をもって行くとしよう。
そして歩く、歩く、ただ歩く。
一人で歩くがほんとに暇で仕方がない、体は動かしているが何か考えて無いと落ち着かないくせに考える事が無い。
誰か連れてくれば良かったのだろうけどこの苦行を押し付けたくはない、豊にはダンジョンの監視があるし、セイとエルはまだ子供、アリーは補佐を頼んでいる。
途中で見つけた鹿や兎を狩って燻製にして持ち運べるようにする、水は持って来ているし、川があるから問題ない。
「・・・・・・・・・やっと着いた、長かったよ」
帝国の城壁が目に入った時は溜息がでた・・・それでも結構距離があったけど。
国に入る城壁の門で止められる。
「そこのお前、止まれ、何者だ!」
「さあ?何者だろう?」
自分が何者か解る人間なんてそうは居ない。
「まあ旅人かな」
「そうか、一人か?」
「そうですが何か?」
「最近では危険な魔物が出現しているとの情報が続出していてな」
・・・なるほど、一人では危険すぎるという事か。
「私は大丈夫ですよ、試して下さっても構いません」
「いや、必要ない、身のこなしで実力は解る」
・・・それは盲点だった、少しは弱く見せる必要もあるかもしれない。
「それで入っていいの?」
「ああ、構わない」
「私が敵国の刺客の可能性もあるのに?」
「それがどうした、皆を疑っていてはきりが無い、ならば正体を表してから対処するとの事だ」
・・・凄いな、そこまで割り切れる者は少ない、自分の地位すらも興味が無いというのは真実の様だ。
町に入り、商店を見て回る。
「旅人かい?なら保存食はいらんかい?」
そう呼び止めて来たのは干し肉などの携帯食の露天商だった。
「不要だけど余ってるんだ、安くで良いから買い取ってくれないか?」
「構わんよ」
燻製の肉を渡すと銀貨二十枚と交換してくれる。
「また来てくれよ、次は買ってくれるとありがたい」
軽く頷きを返して他の物を見る。
大してめぼしい物は無かったが、簡単な調味料と日用品などを調達しておく。
色々物色したのちに商業区を後にした。
・・・大きな都市にはほぼ確実にある筈だが・・・ここか。
ひっそりとした路地を抜けてある場所にでる。
スラム街・・・貧困層の居場所、ここを見れば大体の国の状態が解る。
ここは良い国の様だ、スラムという事は解るが生活状況もそこまでひどくは無い、見た所働き口はあるし、賃金も正しく払われている、その上大きな差別が存在していない。
第一に人々が楽しそうだ、暮らしに未来を感じているのがありありと解る。
そして町のあちこちを見て回り、その状況を把握すると王宮に向かう。
そこはまさに王宮と言った姿で、色々な人が入ったり出たりしている。
「今回の食糧生産の具合はどうですか?」
「去年よりも上がっております陛下」
「陛下は必要ないと言っているでしょう」
農務尚書のにそう返して私は言葉を続ける。
「去年は食料の生産が平年より低かったですが、今年は問題なさそうですね、他国の動向はどうですか?」
「問題ない、去年の戦いで高い損害を与えたから暫くは来ない筈だ」
軍務尚書の言葉に頷いて私は一番気になっていた事を質問する。
「あの村が一夜にして崩壊した理由について何か解った事は?」
それこそ私が一番気になっていた事だ。
何者か解らないが敵対する可能性がある限り無視することは出来ない。
「調査に向かった二人は何も語っていません、口止めをされて居るのでしょう、ただ敵対者ではないが戦ってはいけないとだけ言っていますが」
私は眉を顰めるあの二人はこの国でもかなりの実力者だ、それが戦ってはいけないと言うのはどれだけの存在なのか?
「この件に関してはどうするべきでしょうか?」
「どうしようも無いというのが本当だろう、まず相手が何者か解らないからコンタクトの取りようがない」
軍務尚書の答えは確実な物だ、だが、だからこそ私は何とかしたいと思う。
少なくとも強い事は間違いない、それに子供に障害を与えて捨てる事を行っていたあの村を壊滅させたのが義侠心からのものであればそれは貴重な人材だ。
出来れば手中に収めたい、たとえ制御できなくても敵に渡るよりは遥かに良い。
「自ら捜索なされるのはお止め下さい、貴女は昔の自由な子供ではないのです」
帝国宰相の言葉が私に重く伸し掛かる。
本音を言えばこんな地位は投げ捨てて自由に暮らしたい、でも人々の為を思うとそれは出来ない。
「ちょっと失礼するよ」
会議用の円卓がある部屋に聞き覚えの無い女性の声が響いたのはその時だった。
「誰だ!」
「忍び込んで会議を盗み聞きして申し訳ありません、なにせ私について話されていたのでつい気になってしまって」
その言葉に全員の動きが止まる。
「まさか貴女は」
「その村を滅ぼしたのは私です、私の名ははニュクス・ナイトメモリー、自由帝に会いに来ました」
そう告げたニュクス・ナイトメモリーと名乗る女性は驚くべき発言をする。
「私はダンジョンマスター、従属する気はありませんが場合によっては貴女に協力するつもりです」




