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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
13章 天軍を統べる者
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216話 逢魔ヶ時1

 ……静かなものだ。

 守らなければならぬ者のないこの場所にて、天使はただ動けずに私を見ている……全く、生物の上位者ともあろう者が愚かな事だ、こうしている内にもこの城を覆う結界は自己改良を行い続けているのだから。

「……遠くに目を向ける程に近くは見えなくなるものだ、天使よ……こんな所で私に足をすくわれるようでは、結局は世界の覇権など握れなかったろうな」

夜神星華やがみせいか……貴様は一体何者なのだ」

「人にして人ならぬ者、本来存在する筈の無い異端、世界の不具合、それが私だ……だが、それもまた人類の可能性の一つなのかもしれんな」

 人と鬼の間に生まれた異端の子、私は最初からまともな存在ではない、かつて記憶を失ったのもそれが原因なのだろう。

 本来存在して良い力ではないが、これは私の力だ、誰に剣を向けるか程度は私が決めてもいいだろう。

「天使、苦難からの救済を餌に、人間に試練を課す者たちよ……しからば私が其方らへの試練となろう」

「試練だと……貴様は我らの道を叩き潰すのではないのか!」

「なに、其方らの方法でも平和は訪れよう、ただ人間の自由は無くなるがな……それでも其方らの道に理がない訳ではない……だが、其方らの正義と私の正義は相容れぬものだ……勝者こそが真の正義、それは其方らが人類に様々なものを与え続けて生まれた理だ……さあ、其方らの正義をもって、この私を止めてみせよ」


 両の手に双剣を携え、天使達に向かってゆっくりと歩を進める。

 そんな私に天使達は避けるように後ずさる。

「……一つ思いついた、其方から奪ったこの眼だが、こんなものの力で私が勝ったなどと思われたくはない、返してやろう」

 双剣を鞘に納めた後、自らの手を右眼に当て、天使長の眼を抉り取って投げ渡す……一瞬視界が消えるが直ぐに私本来の眼を扱う事で視界が元に戻る。

「……余裕のつもりか」

「右眼の予備だけ持っていても仕方あるまい」

 敢えて後ろに下がって天使長が自らの眼を嵌めなおすのを待つ、私の目的は時間稼ぎなのだから当然の事だ。

「嵌め終わったか、では始めよう」


 組んでいた腕をそのまま下に下ろし、腰に仕込んでいた双銃を握ると素早く引き抜いて連射する。

 全方位の最も近い相手から翼、腕、足を打ち抜き、無力化する……銃弾の威力は強力だ、掠めただけで激痛が走り常人なら動けなくなる、わざわざ狙い辛く、頑丈な骨を持つ頭部を撃つ必要などどこにもない。

 それに加え、この銃には転移術による自動装填機能が存在しており、最速で連射しても給弾が間に合うようになっている為、あらかじめ用意していた弾が尽きるまでは無尽蔵に撃ち続けることが可能だ。

「貴様、そんなものまで」

 射撃を止め、硝煙を風の魔術で払いのけると、数十の天使が行動不能になってはいたものの、殆どが魔術による障壁で防いでいる。

「私の武器だ、何かと便利なのでな」

 そういって銃を戻し、強めに生み出した鬼火を放つが、障壁に阻まれて消滅する……それなりの強度はあるようだな。

 味を占めたのか、障壁を展開したまま、複数の天使が武器を構えて近づいてくる……愚かな事だ。

「掌では、水滴を受け止める事は出来ても、川の流れまでは止めれまい」

 匕首の柄に手を掛けると、地面をけり、次々に障壁ごとその体を切断する。


 一瞬の凶行に天使は動けないでいる……相変わらず想定外な事象に弱いな。

「全く、門を開けたから警戒してみれば、大量の魔力があってもここまで実践慣れしていないのでは意味がないな……大方気に入らない相手を一方的に虐殺するばかりだったのだろう」

 かつて明けの明星の名の下に多くの天使が離反したのもあるのだろう、最初期から上位に居た者は実戦経験もある程度はあっただろうに。

「貴様も同じであろう、その恵まれた才覚でどんな相手でも虫けらのように扱えるのだから」

「馬鹿を言うでない、才覚だけでどうにかなるほどに戦いは甘くはない、それを解せぬ時点で底がしれると言うものよ」

 どれほど馬鹿力があったとしても、周囲の状況を認識できたとしても、それを瞬時に解析し判断を下さなければただの的でしかない、ただ死線を切り抜けた数がそれを速めてくれる……才覚を下地に経験を得て、魔術を研究し、状況を分析する、それを積み重ねた結果天軍の居る場所に手が届いただけの事だ。


 だが、門を見れば次々に天使が沸いて来ている、最下位の者や隷属している者を含めれば、億は下らない数は居るであろう天軍と戦い続け、全て制圧するのは不可能だ、弾丸も尽きるし、私も疲弊していく……だが、時間が稼げればいい、ここの結界が完全に突破不可能な水準になるには少なくとも二日は必要だ、それくらいならどうにでもなる。

「貴様がどれほど強くとも、我らの数に適いはしない」

「ああ、だが手など幾らでもあるのさ…………立ち上がれ」

 私の言葉に呼応して周囲の天使の死体が動き出す、壊れた部分は他の死体から回収し、余った部分は一つに固めて、動く肉の人形に作り替える。

「私は時間が欲しいのでな……暫くそれの相手でもしていると良い」

 私はきびすを返し、扉を開けて聖堂を出る、結界があってもこの城の中を動き回る事は出来るのだから。

 扉を閉じて無数の荊を巻き付けて封鎖する、これで数時間は稼げるだろう。

「天使よ、何も正面から刻み合う事ばかりが戦いではない……私は破られるだろうが、それすなわち私の負けではないのだよ」

 そう呟いて歩き出す、何も急ぐことは無い、天使が人形共を制圧するまでには十分離れる時間はあるのだから。

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