21話 私の望む未来
そっと目を開けるとサラサラした金色の髪が目に入る。
他の皆は部屋に居ない、珍しく遅くまで寝ていたようだ。
アリーのその髪を手でそっと撫でる。
彼女が僅かに目を開けると思わず抱きしめてしまう。
それに応えるように抱き返され、私はそっと目を閉じてただそのぬくもりに身をゆだねる。
暫くしてベットから起き上がり、マスタールームに行くと豊の姿が見えない。
「豊は?」
『自分のダンジョンの整備に行くとの事です、止めた方が良かったですか?』
「いえ、それなら構わないわ」
彼女のダンジョンの運営は彼女自身に頼んでる以上それを止める事は無い。
「あの、誰かが入って来たようですけど」
エルにそう言われてモニターで確認すると、男が一人真っ直ぐこっちに向かってくる・・・ジークか。
地図は渡したけれど迷われると面倒だから迎えに行く。
「情報は?」
「問題ねぇ、どっから聞くんだ?」
面倒だが細かく質問する、全て暗記するから記録は必要ない。
・・・暫く質問を繰り返し、大体聞きたい事は分かった。
貨幣に関しては銅貨、銀貨、金貨があり、銅貨一枚は約十円ぐらいで、それぞれ十枚で次の物と同じ価値として扱われるようだ。
ただ、金貨などは合金の為加工していない金の方が価値があるようだ。
次に詳しい帝国の位置はここから南、広大な盆地のような地形の中心付近の高くなってる所に城壁を廻らせてそこにあるらしい・・・防衛には最高の立地だ。
そして皇帝・・・女性だから女帝と言うべきか、彼女の出身は平民、政治が腐敗し、賄賂などが横行した民主主義国家であったそれまでの国を滅ぼし、実力主義を基盤とした国を作りだしたらしい。
いかなる出身の者でも有能なら引き入れ、自分の地位さえも平気で与える覚悟を持った者という事らしい。
現在ではそこから西にある巨大な帝国主義国家に狙われているようだが、攻め手は無い物の防衛に関しては完璧な対応で少しずつ相手を消耗させているのが現状の様だ。
「まあこんな所ね、感謝するわ」
「ああ、お前に従うのが一番安全そうだからな」
「ええ、私の事は劣勢になれば裏切ればいい、それが嫌なら私は常に上に居続けるだけだから」
「あの国の女帝も即位した時に似たような事を言ったらしいぜ」
なるほど、その女帝も良く解っている様だ、より有能な者を集め、向上心を持たせる事ができる。
ジークには礼に金を少し渡して、今度は動きが無いか探ってもらう。
「解った、任せておけ」
「あと私も帝国に行くかもしれないからその時は案内を頼むわ」
例え元山賊でも、あの帝国では問題ないらしい。
「解った」
ジークが帰りふと息を吐く。
結構時間がかかったな、もう数時間で日暮れか、遅く起きたのもあるけど。
その時ダンジョンに侵入者を知らせるアラームが鳴った。
・・・・・・盗賊の類か、音声によるとダンジョンのコアを狙ってるのか。
ダンジョンコアは魔力を含む宝石である魔石の一種で、その中でも凄まじい力を持っている為、人間に狙われる事もある。
殺しに行こうとした足を止める、部屋からアリーが消えている・・・気付かなかった。
大丈夫かと心配したがその必要は全く無かった。
結果は瞬殺、二人居たが全く相手にならなかった。
忍び寄って一人目の首を折ると同時に二人目の心臓にナイフを突立て命を奪って戻ってくる。
「お疲れ、アリー」
頷いて私の元に来るアリーに少しだけ言う。
「今度からは私がダンジョンにいる時は一度確認を取ってからにしてね、私が居ない時や戦ってる時は自分で判断をして」
再び頷いて頭を上げない彼女を抱きしめて頭を撫でる。
「私は怒ってないから、大丈夫と解っていても心配なだけ、別に良いんだよ」
軽く口付けを交わして微笑む。
「今回は私の負担を減らす為に動いてくれてありがとう」
セイとエルは早めにベットに入り、マスタールームに二人で残る。
盗賊から得たDPは700、残りと合わせても1000だ。
これはまだ使わずに置いておく。
そうして再びアリーを抱きしめる、今度は皆の前ではしないしっかりとした抱擁だ。
そうして今度は恋人同士でするようなキスを交わす。
口を話すと首元に顔をうずめ彼女の存在を確認するように息を吸う。
女の子特有の香りを吸い込んで吐き出す。
・・・多分私は怖いんだろう、触れて無いとどこかへ消えてしまいそうな気がして。
「アリー、やっぱり怖い、怖いんだ何が怖いかは解らない、強いて言えば自分自身・・・かな?」
話すことを少し考える。
「自分の狂気は危険、でもそれは私の精神を形作る大切な一つ、無くす事は出来ない・・・だから君には強くあって欲しいの」
アリーに自分の存在の一部を分け与える時に剛毅のカードを使った意味はそれだ。
強い意志を持った者であって欲しい、ただそれだけの理由、でも私には最も大切な理由だ。
私の言葉にアリーがそっと頷くのが抱きしめてて見えなくても解る。
「・・・外に出ようか」
ダンジョンの外に出て大きな木の枝に並んで座り、星を眺める。
「綺麗な夜空、気を抜けば吸い込まれて自分が自分ではなくなってしまいそうなほどに」
私の狂気にそれはとても似ていた、冷たい静寂もどこまでも変わらない闇も。
それを見ているとアリーが寄り添ってくる。
その肩に手をまわし、もたれさせる。
「アリー」
ただその名を呼ぶ、そこに意味は無いが、それに意味がある。
木を削って作った杯に入った水を七割飲んでアリーに渡す。
従属の儀式の様な物だ、元々従属しているから意味は無いけど私なりの事をしておきたかった。
空に煌めく月を眺め、おもむろに手を伸ばしてみたりする。
ここから月が掴める筈が無い、でも掴んでみたい・・・私には無い輝きを。
私は弱い、それは間違いない、でもそれを私は受け入れる、それが私なのだから嫌う事は許されない。
私は大したものを持って居ない、戦いの能力なんて価値のある物じゃない。
それでも、アリーは大切な存在だ、豊や空、セイも大切だけど彼女は特別だ。
私が作り出した存在、私の生命力を注ぎ込んだ私の半身。
それが彼女アリス・ナイトメモリーなのだから。
私は彼女と共に未来を見たい。
それが出来れば他に欲しい物は無い。
世界を見ながら旅をする人生も悪くないと思える。
・・・でもそれは私のダンジョンが絶対に攻略されないようにしてからじゃないといけない。
幾ら転移で帰れるとはいえ、静かな暮らしを邪魔されたくはない。
その為にはここを最高の迷宮にする必要がある。
戦いは嫌いじゃない、強い相手との戦いは心が躍る。
でも、私は今ただ彼女をと共に居れればそれでいいと心から思っている、それは間違いない事実だ。
・・・・・・・・・だから、私は戦う、彼女と一緒に笑える、そんな未来を掴みたいから。




