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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
13章 天軍を統べる者
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212話 天軍を統べる者23

 目が覚めた私は、そっと体を起こし、寝台から立ち上がる。

 隣の部屋の扉を音を立てないように開けて、とよがまだ夢の中に居るのを確認した後、私の迷宮の外に出ると、焚火の前で天音あまねが椅子代わりの丸太に腰掛け、目を閉じている……周りに注意は向いていないが、寝て居る訳でもないようだ。

「……眠れないか」

星華せいかさん……その通りです」

 横に座って声を掛けた私に、天音は一拍置いて答える。

「貴女も同じですか?」

「いや、私は元々あまり長く寝る訳じゃない……それに最早、戦いの前に高ぶる程、戦慣れしていない訳でもない」

 それならば以前は高ぶっていたのかと問われれば、二年ほどしかない記憶において、そのように感じた覚えが有る訳でもない……ただ、いつも通り獲物を狩るだけの事だ。

「貴女は強いのですね」

「他者を暴力で制圧し、始末する能力を強さと呼ぶのなら……まあ、私は何よりも強いのだろうな……だが、他者を救い、守る能力を強さと定義するのなら、天音は私などより遥かに強い」

「……そうでしょうか、仮に貴女が敵に回ったとしたら、私には皆を守れるとは到底思えません」

 そう答える天音だが、彼女は自分が無意識の内にしている選択に気付いていないようだ。

「だが、天音は私の前に立ちはだかる、絶対に勝てず、死の運命が決まっていたとしても、稼いだ僅かな時間の間に誰か一人でも生きて逃げれる可能性がある限り、天音は諦めない筈だ……それが出来て弱いなどという事が有る訳がない」

「……もし、それが本当になったらどうしますか」

「死を受け入れて尚、戦い抜くと決めた相手を、生かして制圧するなどと言う冒涜を私がするなどと期待するな……間違っても、私とは敵対しない事だな」


 私が薪を鉈で割りながら、焚火へ投げ入れていると、天音は静かに口を開く。

「貴女は……その力を殆ど自分の為に使いませんね」

「私は……国の支配者になりたいなどとは思わないし、金貨など大量にあっても積み上げて遊ぶ程度の使い道しかない、迷宮の支配者としても気楽に暮らせるだけの防衛力があればいいと考えている……だけど、私はこんな力を持って生れて来たんだ、だから私は大切な人の為に力を振るう……だからだろうな、私が無欲に見えるのは」

 実際、私は無欲などではない……美味しいものは食べたいし、寝たいときには寝る、恋人とはずっと一緒に居たいし、楽しい事は好きだ……でも、それは別にこんな暴力を持たなくても出来る事だ、確かにこの力がそれを容易にしてはいるが、わざわざ力を振るってまでする事では無い、ただそれだけの事だ……もしそれが必要になれば私は躊躇なく刃を抜く、本当にその程度でしかないのだ。


 パチリと焚火から飛んだ火の粉が天音に向かうのを素手で防ぎ、私は再び口を開く。

「私には、人の言う正義や悪などと言うものは理解しがたいものだ、誰もが自分が正義だと思う行動をして、相容れぬものを悪と呼称し排除する……そんな中でただ一つの正しさなどを見つける事は不可能なことだろう……だが、どんな状況であっても最低限の秩序は必要なはずだ、そしてそれを生み出せるのは絶対的な暴力でしかない」

「星華さん、まさか……」

「神はその秩序の形の一つだ……それを壊すからには、少なくとも一時的な代替物が必要だろう……白でも黒でもない灰色の裁定者なら、統治組織を作成するまでの絶対者としては都合が良いだろう」

「ですが、それの行きつく先は……」

「追放、そうなるだろうな、だが私は国が欲しい訳では無いからな……最小の犠牲で最大の利益を得る、簡単な事だ、誰だって出来る……自分を犠牲にする事を選択すればな」

 共通認識となる邪悪の象徴があれば人を纏めるのは難しい事では無い筈だ……私には出来ないからこそ、それがしやすいように手を打つ、ただそれだけの事だ。


 ゆっくりと立ち上がり、天音に背を向けて歩き出す。

「星華さん…………」

「安心して天音、君達は私が絶対に守るから……約束しても良いよ」

「約束など要りませんから、貴女も無事でいて下さい」

「……」

 天音は賢い、だからこそ私を止められないだろう。

 ……最小の犠牲で最大の利益を、自分を犠牲にすれば簡単に出来る事、天軍を相手にする時も同じだ……私一人で戦えば、少なくとも負けは無い。

 豊は文句を言うだろうけど、私が責められるだけなら構わない……あの子を失うよりは遥かにましだ……それに、あの子が生きていれば、私が死なない理由になる。

 ……生きる理由を探せと人は言うが、私にとっては死なない理由があればそれでいい、私にとってはそれが豊の存在だ。


 ……だから、終わらせよう、この下らない戦争と、天軍の支配を。

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