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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
13章 天軍を統べる者
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208話 天軍を統べる者20

「……さあ、始めようか」

 少しして日が没し、月明かりと篝火の照らす中、橘花きっかに向けていた匕首の刃を下に下ろす。

 そのまま目を伏せた瞬間、鋭い風切り音が迫る……狙いは首元、愚直ではあるが有効な一撃だ。

 半歩身を引いて、刃をやり過ごし、橘花の顔を眺める……相手の手元に気を取られてはいけない、見るべきは相手の全体、そして周囲の空間だ。

「いくよ」

 地面に下げていた匕首を、そのまま上へと跳ね上げる。橘花は素早く刀で受け止めるが、私の刃は刀の上を滑り、手元へと流れていく。

 橘花は大きく後ろに下がり、刀を握りなおす。

 私は再び匕首を下げ、その様子を静かに眺める。


「……攻めて来ないのですか?」

「……それが望みなら」

 素早く踏み込み、横へと薙ぎ払う……そしてそれを途中で止め、突きへと変える。橘花は身を捻ってその突きを躱そうとする。

「甘いな」

 匕首を両手で左半身側に引き戻す勢いを使い、右回し蹴りを胴に打ち込む……そして距離を取って、動きを待つ。

 橘花は左手で打たれた部分を抑え、右手では地面に突き立てた刀を支えにして片膝をつく。


星華せいかさん……」

「…………」

 私は動かない、暫くの沈黙の後、橘花は諦めたように口を開いた。

「私の負けです」

「ああ、奇襲を見破られて尚試合を続ける事もない」

 最後、私が近づいていたりしたら、攻撃されていただろう、彼女にはそれを出来る技量がある、そう分かって居れば、いなせない事もないが危険な事をわざわざすることもあるまい、

「何故分かったんですか?」

「気配だ、それと右手が素早く動かせるようになっていたからな」

 立ち上がった橘花と握手する。

「少し話そう、人の居ないところで」


 試合を行った場所から少し離れた人気のない所の長椅子に、二人で並んで座る。

「……済まない事をしたな」

「何がですか?」

 訪ねる橘花に肩をすくめる。

「君に戦い方を教えた事、そして武器を渡したことだ……君は私とは違う、こんな事をするべき人じゃないんだ」

「私の何が悪かったんでしょうか?」

「悪いのは君じゃないよ、君は……こういう言い方は好まないが、善人なんだ 」

 先ほどの試合でも、急所を狙ってはいたが、踏み込みは浅く、動かずとも当たらないような攻撃だった。

 ……彼女は人殺しを楽しめるようになるほど非道ではないし、割り切れる程愚かでもない、ただ優しいだけだ。

「君は優しい、私は人では無いからこそ敵をただの獲物だと認識できるが、君は違う……そんな君に血塗られた道具を渡してしまったのは、私の過ちと言えるだろうね」

「私は……家族の命と他人の命なら、家族を選びます、それを守れる力を貰ったんです、苦しみはあっても、後悔はありません」

 ……彼女の言葉に目を逸らす、責めて欲しいと考えるのは甘えだったか。


 しばらくの後、私はおもむろに立ち上がる。

「皆の所に戻らなければな……君の人生が私と違って()()である事を祈っているよ」

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