20話 アリス・ナイトメモリー
・・・・・・まさかこれ程とは、強化やり過ぎたかな。
強いのはいいんだ、喜ばしい、でも彼女は奉仕人形、基本戦闘系の種族じゃない。
カードとの相性がよく、その上私が魔力を注ぎ過ぎたかもしれない。
そう思うのは今彼女の狩りを見ている感想だ。
彼女には魔法を使わないように言ってある、私がやり過ぎたのが原因だけど下手したらこの辺りが焦土になりかねない・・・魔法の制御訓練は必須、ダンジョンの壁は破壊不能だから小部屋を作るのもありかもしれない。
視点を現状に戻すとアリスは私と互角かと思える格闘技を見せている・・・あ、魔物の熊を倒した。
どうやら魔物は自然にも居るようだがアリスには苦戦する事も無い相手の様だ、ついさっきも猩々(しょうじょう)の様な何かを素手で絞め殺していた。
彼女は私のドッペルゲンガーなのかと思うぐらいの実力だ、そうか私の力を諸々注いだから大差ないのか。
豊に私の氷人形作らせて戦わせてみるのも・・・私自身が戦った方がいいか。
流石にでかい猿の猩々は食べる気にならないけど熊は食べる。
日が暮れて夜になり、他に狩った獲物をダンジョンへと運び込んで解体をする。
豊も手伝っている。
「解体は久しぶりだよ、昔は鹿とか猪とか田を荒らす獣をよくとって食べてたんだけどなぁ」
元の世界では鳥獣保護法とかで害獣駆除も出来なくなってしまっていたからね。
鹿も猪も美味しいのに何故食べないのだろうか?
殺すのが可哀そうとか言ってるが、どんな生き物でもいつかは死ぬ、それに食べるために殺すのは自然の理だろう、それに私はどちらかと言うと獣を捕らえて人工的に繁殖させ、餌を与えられて殺される為に生きてる動物の方がよほど可哀そうだ。
それにその肉を食べきれずに捨てているのだから嘆かわしい。
そんな事をして平気な奴は地獄にあるみだらな殺生を罰する等活地獄に落ちれば良い。
まあ争いが好きだった者もそこに行くらしいから私もそこに行くかもしれないけど。
アザトースに頼んどけば地獄に行けるかな?できれば日本の地獄が良い。
まあ私は地獄でも居場所見つけて獄卒になってやるけどね。
・・・なんか途中から愚痴になってたな。
取り敢えず村から持って来てた水瓶に汲み置いて居た水で血の付いた手を洗い、少し飲んでおく。
奉仕人形とはいえ生命体であるアリスにも飲ませる、人間ではない事を理由に我慢する事もあるだろう彼女の場合その手の管理は私がしておいた方がいい。
アリスをベットで休ませる、人でなくても流石にあれだけの動きをしてそのまま休まないのは問題だろう、私ですら休息はとる。
眠ったアリスの頭を撫でて私も一緒に横になる。
彼女の名はアリス・ナイトメモリー、私のこの世界での名はニュクス・ナイトメモリー、国などに行く時に姉妹として通す為もあるが本来の意味は違う、私と対等の立場に居て欲しいという願い等が入っている。
まあ結局は私は女好きだし、彼女も十分に範囲に入っている。
目を開けた彼女にそっと語り掛ける。
「ねえアリー」
アリーはアリスの愛称、私以外には使わせない。
「貴女は私の家族よ、奉仕人形って事は関係ない、私と一緒に居て、そして私が間違った事をしようとしたら止めて欲しい、できればでいいから」
必要なのはそれだ、私に従うだけでなく、私と戒め、止めてくれる人が必要だ、それが無ければ私は何処まででも沈んでいくのだろうから。
皆がマスタールームに居て周りに誰も居ない事を確認してから話を続ける。
「本当は怖いんだ、死ぬのが、勿論不老不死である事は解ってる、でも死ぬ可能性はゼロじゃない。」
そこで一息おいて更に続ける。
「・・・違うな、怖いのは死ぬ事じゃない、消える事だ、地獄があるならそれでいい、私が天国に行ける訳が無い、でも消えるのは怖い、全てが無くなって私という存在が消滅する、それが怖いんだ」
アリーが喋らない事をいいことに私は不安をぶちまける。
「本当は私は誰も殺したくないって心の底では思ってるんだ、でも、私の中に殺したいという思いがあるのも事実、それを止める事は出来ない」
少しの静寂があり、私は自嘲気味に笑う。
「多分それが私の狂気の正体なんだろうね、『殺したい』と『殺したくない』、その相反する気持ちがぶつかり合って心を覆いつくし、瘴気となってるんだろうね・・・・・・まるで自分のやりたい事が解らない子供みたいだ、馬鹿らしい」
最後を吐き捨てるように言うとアリーはそっと抱きしめてくれる、人と何も変わらないそのぬくもりにそっと私も抱き返す。
「この狂気はいけない物だ、捨てないといつの時か大切な物を失ってしまう、だけど、出来ないんだ、どうやっても封じ込めるだけで解決にはなってない」
それに、と呟く。
「私が消えるのも怖いけど、大切な人を失うのはもっと怖い、楽しみを分かち合う人もなく永遠に生きる事こそが私の一番の恐怖なんだ」
だんだん解ってくる、自分の中の何かが。
「私は怖い、全てを失ってしまうのが、幾ら隠してもそれは変わらない・・・・・・私はそんな弱い人間だ」
アリーはそっと首を振るが私は否定する。
「私は弱い、多分他の誰よりも、ただ今は強いふりをして自分を誤魔化してるだけだよ、」
アリーの美しく澄んだ青い瞳を見ていると心が落ち着く。
「アリー、重責なのは承知でお願いするよ、これは命令じゃないから守る必要は無いよ・・・・・・出来るだけでいいから私を支えて欲しいの、そうじゃないといつか私は壊れてしまうから」
そうじゃなくても私はいつか壊れるだろう、それは宿命に近い物なのかもしれない。
出来るだけそうならないようにするつもりだけどそれは難しいだろうから。
アリーはそっと頷く。
「それと、これも我が儘だけどアリーと二人の時はこんな風に本当の私で君に甘えても良いかな?」
アリーは相変わらず何も言わずに私の体を更に強く抱きしめる・・・・・・・・・・・・言葉は要らない、それこそが了承の証だった。




