202話 天軍を統べる者14
テントを出ると右側から気配を感じ、そちらを見ると、一匹の狼が飛び掛かってきていた。
それを匕首の背で打ち据え、地面から生やした五本の荊で刺し貫く……まだまだ敵は多いのに、こんなところで匕首の切れ味を血で鈍らせるわけにもいかないだろう、まあ、叩き割ればいいのだが。
私に気付いた狼たちが集まってくる……話が早くて助かる、陣地の端の方には動く鎧が見えるし、手早く済ませるとしよう。
狼を打ち据え、死霊術対策に首を刎ね、鬼火で焼き払う。
そうして周囲に一時の安全地帯が生まれた隙に、狩猟弓を携えた豊が近寄ってくる。
「星華ちゃん、この状況はまずくない?」
「そうだね、このままだと軍が滅ぶ」
周囲を見回すと、今だ多くの狼が残っているし、リビングアーマーに関しては減っている気配がない。
……どちらも対人戦を想定した軍に対して効果的な選択だ、対人用の武器なら狼は躱すし、リビングアーマーには傷を付けれないものが多い。
そもそも、騒霊に近い存在であるリビングアーマーは、憑代の鎧を壊せば消えるのだが、一般的に鎧兵に有効とされる棍棒は、その衝撃で中の人間を攻撃する目的上、凹ませることは出来ても破壊には至らないのだろう……刺突剣は鎧に中身無いんじゃ論外だし。
「豊は狼を狩って、出来る?」
「勿論、一応護身用の山刀持ってるし」
「ああ、それ私が打った奴だね、丈夫だけど軽いから扱いやすい筈だよ……でも、基本接近戦はしないように」
「解ってるよ、星華ちゃんはリビングアーマーをどうするの?」
「それにはこれを使う」
そう言って転移術で私のダンジョンの倉庫から引っ張り出してきたのは、金砕棒……要するに鬼の金棒だ。
基本的にはメイスとそう変わらないが、大きさと重量が桁違いな為、リビングアーマーだろうが叩き潰してバラバラに出来るだろう。
総鋼鉄製の八角形の身は、菱形の鋲によって威力を増してあり、持ち手には滑り止めに若い鹿の皮を鞣したものが巻いてある……長さは六尺(約1.8M)であり、重さは十九貫(約70Kg)もあった……正直これを片手で余裕で振り回せる自分が怖い。
「天音も一緒に来て、天音の釘は振り回せば十分リビングアーマーに通用するし、電撃なら多分効果ある」
「解りました」
「星華ちゃん、狼は私一人だとちょっと多すぎるんだけど」
「……ならこれを使うか」
再び転移魔法で取り寄せたのは一見バスケットボール程度の大きさの金属の球体だ。
それを地面に放ると、少し転がったのち、八本の足が生え、金属製の牙も内から現れる。
「……蜘蛛?」
「そう、スチームコアを使った機械の蜘蛛、蒸気噴射と、蒸気圧力での金属の串を発射する機構があるから戦闘力は高いよ」
その機械蜘蛛を計二十体取り出して、周囲の敵対的な魔物の掃討を命じる……こんな曖昧な命令で済むのは流石魔導技術と言った所か。
「さあ、狩りに向かおうか」
……まともに暴れられるのは久しぶりだ、存分に楽しむとしようか。




