201話 天軍を統べる者13
……軍が陣を築いてから、半月が経過した。
戦争は、最早戦いとすら呼べない膠着状態であり、どうにか突破法を模索しているが、それもただ被害が増えるだけに留まっている。
結界は元々、攻撃を行う為のものでは無いから、手を出さなければ脅威は少ないが、町を囲う城壁の上には複数の大型バリスタが設置してあり、射程に入れば容赦なく地面に縫い付けられる事になる。
……数十年は持つ備蓄があるあの国にとっては、ただ、こちらの消耗と、士気の低下を待っていればいいのだった。
「周囲の農村への侵攻はどうなっている!」
「それが……何もありません」
「何もない訳がなかろう、人が住んでいるのだぞ!」
「その……村があった筈の場所には、ただ、火事の痕跡が残っていました」
これが昨夜の軍上層部と、下級兵士隊体調の会話の一部である。
全ての食料備蓄はもちろん、武器や資材として使用できる農具や料理器具などの金属製品は既に町へと運ばれ、家や畑には火を付けて使用不可能にし、井戸すらも破壊してある念の入れようだ。
そもそも、行軍と言うのは、途中の町や村から略奪することで食料を追加で確保し、金品などの成果を上げることで撤退の言い訳にもしているのだ。
一切の成果もなく、ただただ日に日に減っていく食糧と、募る疲労に、既に軍の士気は地に落ちている。
それでも軍が成り立っているのは宗教国家の特殊性と、まだ、資源が尽きていないという理由くらいしかない。
「星華さん、貴女は何を?」
私が膠着した戦場を尻目にテントの中に運び込んだ椅子と作業机で、新しい魔道具の開発をしていると、後ろから天音が声をかけてくる。
「新しい魔道具だよ、一応動作はするから見せるよ」
そう言って見せたのは、複数の歯車とパイプ部品で構成された金属製の球体で、隙間から中を見ると、赤と水色の宝石が仕込まれているのが分かる。
「一体何ですかこれは」
「スチームコアだね、これ自体は水と火の術式を併用して、蒸気を生成する為の物だけどね」
「要は蒸気動力を生産する装置ですか……魔力を直接動力にするのではだめなのですか?」
「まあ、ものによっては、別にいいんだけど、仕組みが単純な分これ自体にはほぼジャミングが出来ないのと、あと私の趣味だね」
ただ単に私がスチームパンクな機械が好きなだけである、あとクロックワーク系の道具も……一応、電気機械より物理的に頑丈ってのもあるし、何よりロマンがある。
……何時かは蒸気動力の大型機械を作って見せる。
その時、外が慌ただしくなり始める。
「私が見てきます」
そう言って外に出た天音が、血相を変えて戻ってくる。
「星華さん、敵襲です」
「何故だ、籠城していれば済む話だろうに」
「それが……相手は魔物です」
言われて感心する、確かに輝夜と空が居れば可能だし、被害度外視で使える策だ。
気配を探ると、中々に強力そうな魔物が複数いるのが分かる……これは放っておく訳にもいかないだろう。
「私も出よう、天音は医療班に回っている豊を呼び戻してくれ」
「了解しました」
天音が出ていくのに続いて、私も外に出て敵の位置を確認する……これは、包囲されているな、ここまで気付かせなかったって、事は幻影を使うものもいる可能性がある。
こちらへ向かってくる豊を見て、手にして居た匕首を抜く。
……ここで軍が壊滅しては困る、今はまだ。




