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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
13章 天軍を統べる者
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200話 天軍を統べる者12

 巨大な鉄球を乗せた投石器は、軋みながらその腕を振りかざす。

 この投石器は通常使われるものより遥かに巨大である分、そこに装填されている球も非常に巨大だ……大砲の玉より二回りは大きいのではないだろうか。


星華せいかちゃん、あれ飛ぶの?」

「ちょっと待って……うん、間違いなく飛ぶ、あの二十台を同時に撃ったら、国を囲んでいる城壁を綺麗に破壊できるだろうね」


 とよに聞かれて即座に計算する、そこまで物理に聡い訳ではないし、不確定要素も多いが、最低十八発位は命中するだろう。


「全射出機、準備完了しました」

「良し撃て!」


 軍団長の命令に従って二十発の砲弾が放たれ、城壁へと向かう、そして城壁のすぐ傍まで迫った時、それは起こった。

 突然全ての砲弾が、逆再生されたように、こちらへと返って来たのだ。


「全員、投石器から離れなさい!」


 素早く叫び、もたついている奴を荊の触手で引き離す……悲鳴を上げているがそんなことを気にする余裕はない。

 跳ね返された鉄の塊は、全ての投石器に命中し、破片が飛び散って、周囲のものを破壊する。

 とりあえず人的被害だけは荊で防ぎ、がれきの嵐を耐える。


「星華ちゃん、これって……」

「結界だよ……私が設計した最悪のね」


 食料を入れた箱は破片によって大穴が開き、中身が半分はこぼれて居る。

 衝撃でランプでも壊れたのか、火薬箱や照明用の油などは燃え上がっている。

 私が防ぎきれなかった細かい破片による怪我を治せば、医療品もかなり減るだろう。

 投石器に当たった後、横に跳ねとんだ鉄球により、武器も数十本は折れて使い物になるまい。

 それに何より投石器は全滅した。

 ……これだけの被害を出しながら、敵は無傷だ。




「夜神星華よあれは一体なんだ!」

「結界、見て分からない?」

「そんなことは分かって居る、だが、あんな結界は我々の知る限り今までどのような世界にも存在しなかったものだ」


 天軍が喚くが、当たり前だ、そもそもあれは結界と言うには余りに異常な存在だ。


「あれは周囲の全ての存在を認識し、攻撃に対し自ら最適解を判断する、そんな結界だ」


 物理学の概念だが、「ある時点において作用している全ての力学的・物理的な状態を完全に把握・解析する能力を持つ存在」は宇宙の全運動(未来を含む)までも確定的に知りえる……そんな概念がある。

 二十世紀の量子物理学によって原理的に不可能とされたものではあるが、「今」を解析することに関しては、狭い範囲ではあるが成功したのだ。

 その存在の名を借りて「ラプラスの結界」と名付けたそれは、多少の誤差はあるものの、攻略する側としては理不尽なまでの性能を誇っていた。


「結界が、自ら思考し、判断するだと!」

「擬似的ではあるがな……完璧に全ての情報を処理しているとは言い切れないから穴はあるが、それでもまともに攻めるのはかなり困難だ」


 まず光は防げない為、閃光爆弾などは効果がある、後重力とかも防げないし、電磁波なんかも無理だ。

 だが、それでも物理的な攻撃や、魔法での攻撃に関しては絶対と言ってもいい程の性能を誇る……なんせ転移魔法ですら無効化するのだ、これを破壊するには、結界を上回るエネルギーで攻撃するしかない。


「それではあの結界のエネルギーはどこから来ているのだ、あれだけの結界を維持するには相当なエネルギーが必要なはずだが」

「大地の下を流れる巨大なエネルギーの流れ、龍脈をほんの少し汲み出して使っている……余剰エネルギーは地下に戻しているがな」


 魔導回路に流せる限界の魔力量があるが、それを無視すればほぼ無限のエネルギーと言ってもいいだろう……私でさえ、あの巨大な流れの前にはコップ一杯の水に等しいというのに。

 今ここにいる者は、人間だろうと天使だろうと、あの結界を突破するのは無理だろう。


「……弱点は無いのか?」

「あるよ、中に向けて攻撃するものじゃないから、内側に入れればどうとでもなる」


 ……中に入る方法が皆無に等しい事を除けば致命的な弱点だ。


「星華ちゃん、それって無理だよね」

「……私一人なら何とか入れるかも知れないけど……私は攻撃しないし、攻撃の協力はしない……只守る為に動くだけだしね」


 私一人だけだったら、魔法を使って広範囲から攻撃し、そっちの処理をしている一瞬の間に中に滑り込むことも不可能ではない……尤も防衛があれ一つという事は無いので、確実に発見されるが。


「そんなものをどうすれば……」

「諦めて帰ればいいんじゃない?」

「そのような事出来ません、これだけ被害を出しておいて何もできずに帰るなど……」


 無駄に軍を失う司令官の典型のような言葉を発する天使に肩をすくめる。


「あれを壊すなら、龍脈の力を借りるか、それこそ()()()()でも起きないとね」

「……」


 それで反論できないとはね……彼らなら本物の神に縋る方法が取れる筈なのにも関わらずだ。


「まあ、色々やってみなよ、私が想定していなかった方法で突破できるかもしれないよ……天才の発明ってのは、往々にして馬鹿の発想に負けるものだからね」


 私はそう言って天使に対し不敵に笑って見せる……当分ここに留まることに内心霹靂しながら。

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