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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
13章 天軍を統べる者
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番外編 行く年来る年

 私達が進軍を開始する少し前の事、とよ天音あまねと一緒に、私の焼いたパイを食べていると、いきなり部屋の中に破裂音が響き渡った。


「やっほー……ってちょっとたんま! 止まって!」

「何の用だ、怨みでもあるのか?」


 急に現れたアザトースの手には使用済みのクラッカーが握られている、先ほどの破裂音はこれのせいだろう。


「怨みでもって……こっちのセリフだよ」

「悪かったけど……いきなり眼球抉りに来るのはどうかと思うんだけどなー」

「獣相手にそんなものを使うのは得策とはいえんな」

「あんたは人間でしょうが!」

「鬼だ、それに、人間も猫や狐と同じ獣だろう?」


 そう言って、アザトースの眼の目前で止めていた右の親指をそっと離す。


「それで、何の用?」

「年末だよー」

「前回の蕎麦パーティーから半年も過ぎてないと思うのだがな」

 

 呆れて呟くと、アザトースは何時ものようににやにやと笑いだす。


「こっちではそうでも、何時か何処かの遠い次元では、今が年末なんだよねー」

「……ああそう、まあいいよ……で、何やるの?」


 私がそういうと、アザトースは、待ってましたと言わんばかりに、空間から何かを取り出した。

 そこそこの重量感を感じさせる音と共に、机に置かれたそれを見て、私は半眼になる。


星華せいかちゃん……これ、蒸籠せいろ……だよね」

「そうだね、十人前はありそうだけど」

「なんという無駄な事を……」


 呆れる私たちを尻目にアザトースは得意げだ。


「ちゃんと茹でてあるから安心していいよ、つゆも色々作って来たからね」

「うん……まあ、食べようか」

「そうだね」


 三人と一柱で蕎麦を啜る異様な光景が、しばし沈黙と共に流された後、私が口を開く。


「で、なんで、今回はこんなに、こじんまりしてるの?」

「いやー、ぶっちゃけこの前やったばかりだし、それに結構人数へったからね~、学校でやっても活気でないんだよ」

「……ああそう」

「……一部はあんたが消したんだよね、まあいいけど」

「それについては必要だった」

「うんうん解ってる、一応そば手作りなんだけどどう?」


 アザトースの問いに、豊の方を見ると、彼女は直ぐにうなづく。


「うん、おいしいよ」

「私は邪神だけど、結構うれしいもんだね、褒められるってのは」

「……そうだな」


 ゆっくりと窓の外を眺める……前回の年末会の時より、随分と冷えてきたものだ、前の時より、格段に年末らしい気温だろう。

 そっと豊と天音の頭を撫でると、豊は嬉しそうに目を細め、天音は少々気が引けているようで、それでも嬉しそうにしている。



 ……私たちにとっては、特に何でもない日であるが、それでも気持ちを入れ替え、これからもゆっくりと生きていこうか。

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