197話 天軍を統べる者9
三日間の行軍準備期間が終わり、とうとう軍が動く時が来た。
国を出る前に盛大なパレードが開かれ、私は豊と一緒に馬車に押し込まれ、国を出るまで馬車の入り口を使うなと言われた……音楽隊の演奏が余りにも煩く、途中で豊と一緒に転移で遠巻きにパレードを眺められる位置に逃げたが、問題は無いだろう……本質的に部外者である私の存在を、民に印象付けない様にするのが目的なのだから、誰の眼にも映らずに移動するなら文句も言うまい。
「戦いの前なのに、なんでパレードをするんだろう」
「士気を高める為だろうね、兵士に民の為の戦いだと教え込み、殺人の罪悪感を軽減できるからな……言うなれば、大義の為と自己暗示をするためだよ」
「ふーん……侵略戦争なのにそんなことするんだ」
「そういうな、彼らにとっては、命を懸けるに足るだけの聖戦なんだからな」
私も正直下らないと思う、色々思惑はあるとはいえ、結局は天軍の面目を保つための戦いでしかない物を、聖戦などと騙り、思い上がった阿呆を扇動しているにすぎないのだから。
……それに、この国の戦いに天使は参加しない、あくまでこの国は人の物であるからと言い訳しているが、自分の手を汚したくないだけであろうし、天使に被害を出さない為でもあるのだろう。
「……星華ちゃん、気が重いよ」
「大丈夫、豊は多分戦力に勘定されてないから」
「それはそれで……」
「単純に豊の能力がどの程度か、良く分かってないみたいだからね……天音はある程度知っているとはいえ、無理はさせないだろうし……天軍には、そもそも、私のお供程度にしか思われてないと思う」
正直私にも豊の能力の限界は測れない……身体能力は私には遠く及ばないものの、巫女としての能力は、神と対話し、その力を借りるという性質上、単純に測れる指標が存在しないのだ。
別の世界……私たちが元居た世界だが、そこに居る神とでも対話出来るのだから、相当な能力だが、単に力を借りると言っても、神の権能、御力、知識などその方向性は多岐に渡る……場合によっては、私ですら手も足も出ない程の力を持ち得る資質がある。
とはいえ、そんなものを受け入れる為には、相応の器が必要だし、器があっても肉体や魂には相当な負荷がかかり、無理は出来ない……逆に言えば、後の事さえ考えなければ、祟り神の如き力を放つ事も出来るだろう。
「星華ちゃん、どうかした?」
「いや、大した事じゃない、被害を減らす算段をしていた」
「……それは私には無理だから、頑張ってね」
「当然」
そう言っている内にもパレードは終わりを迎え、軍は国の外へと進んでいる。
「では、戻ろうか」
「うん」
私は使い慣れた転移の術式を構築し、馬車へと私たちを飛ばす……私が生み出す事になるであろう、痛みと血と死を意識しながら。




