196話 天軍を統べる者8
「……そう、そんな事を話したの」
豊の話を聞き終わり、私は静かに呟く。
彼女は私の胸に、真っ赤にした顔を埋め、プルプルと震えている……私に話すために、客観的に自分の行為を振り返って、今更になって恥ずかしさが湧いてきたのだろう。
そんな可愛らしい反応を見せる、彼女の髪を手で梳くように、その頭をそっと撫でる。
「でも、良かった、天音の事を友達として受け入れる覚悟が出来たみたいで」
「正直、不安はあるよ」
「なに、絶対に分かり合えると保証された人付き合い等ありはしないさ……だからこそ、人生は楽しいのだろうよ」
私がそういうと、豊は、少し笑って、口先だけの文句を口にする。
「星華ちゃんは、いつも楽しい事が優先だよね」
「そりゃそうさ、誰だってそうだろう……ただ、他人に押し付けられた仕事だとか義務だとかでいつの間にか忘れられてしまうのだけどね。……だからさ、たまには浮世の世事なんか全部忘れて、豊の神社の縁側に寝転がって、木漏れ日に照らされながら、うたた寝するのも悪くないと思うよ」
そう言って、頭を撫でて居た手を降ろし、そのまま豊の体を両の手で抱きしめる。
……人との関りで疲れるのは当然だ、私だって自分の欠点をよく知っているから、親しくない人と話すのが好きではないし、ストレスも溜まる。
だからこそ、時には休息が必要だし、無理しがちな豊を強引にでも休ませる必要がある。
「……ねえ、天音と仲良くするのは歓迎だけど、疲れたら言ってね、私は何時でも豊の事が最優先だし……それに、たまには一日中、二人きりで過ごしたいしね」
「……」
既に赤かった豊の顔が更に朱に染まる。
「それとも……そういうのは嫌だったかな」
「……そんなことないって、分かってるくせに」
膨れた様子で答える豊にそっと笑いかけ……朱が差した耳元で悪戯っぽく囁く。
「それに……天音にばっかり構っていたら……私だって少しは嫉妬しちゃうよ?」
「星華ちゃん……」
これ以上ないくらいに真っ赤に染まった顔を隠すように、私の胸元に顔を押し付けてくる豊の、肢体を抱きしめ、その背を撫でる……心地よさそうに目を細める姿は、子猫の様で、とても愛くるしい。
……だが、何時までもこうして居る訳にも行かず、そっと引き離して、口付けを交わす。
「さて……何時までもこうして抱き合って居たいけど……出発の準備もしないとね」
「うん……でも、もうちょっとだけ」
「いいよ」
そうして、報告の為に天音が部屋に来るまでの間、私は豊の体の温もりを感じていた。




