195話 天軍を統べる者7
机に向かってペンを走らせ、研究と実験の結果をまとめていると、部屋の外から足音が聞こえる……体重、歩幅、速度から豊であることを理解し、ペンを置いて立ち上がり、部屋の鍵を開ける。
そして寝台に腰掛けていると、控えめなノック音と共に声が聞こえてくる。
「星華ちゃん、今、ちょっといいかな?」
「勿論、豊の為なら何時でも時間を作るよ」
私がそう答えると、扉が開いて豊が入ってくる、彼女は扉を閉めると、いきなり私に飛びついてきた。
冷静にその体を受け止めて、左手で抱きしめ、右手で頭をなでると、子猫の様に目を細め、私の胸に顔を埋める。
「豊、どうかしたの?」
「星華ちゃん……好き」
「……そう」
冷めた返事しか出来ない自分に腹が立つ、こんな状況にどう返したら良いのか分からないのだ。
だが、何か言わなければ。
「私は……こういう時にどう言えばいいか分からない、けど、豊は私にとって特別だよ」
「……うん」
自分でも下手な言葉だと思う、でも記憶から引き出して来なければこんなものだ。
……それに、一応気持ちは伝わったと思う。
「星華ちゃんは、私より強いし、賢いけど……でも私は星華ちゃんの役に立ちたいの……それで、私に何ができるか考えてみたんだけど……私はこんなでも巫女だから、その才能を使って星華ちゃんの役に立ちたい……んだけど……」
「……どうかしたの?」
「その……お祓いとか、神降ろしとかするのに必要な道具って、ダンジョンマスターの機能では手に入らなくて……ええと……作ってくれないかな?」
「……ああ、なるほど、いいよ……図とか絵で描いてあるものは有るかな、それがあったらすぐにでも取り掛かれるんだけど」
まあ、需要がほぼ皆無だから、アザトースもわざわざリストに載せていなかったのだろう……元居た世界には神具の専門店などもあるから、アザトースに直接頼めば手に入るだろうが、正直大して複雑な構造でもないし、作ればいいだろう……神楽鈴は少々面倒な金属加工が必要だろうが。
そんなことを考えていると、私の問いに少々考えていた豊が顔を上げる。
「ちょっと古臭い絵巻物になら、絵があったと思う」
「それでいいよ、別になくても何とかするしね」
そもそも私は実物を見たことがある、前の世界で豊の神事を見た時だ、映像記憶が出来る私なら、それを基にほぼ完璧な再現が可能だ、ただ、影に入っていた部分もあるし、細かい模様などに関しては遠目には見えなかったから、簡単なものでも絵が欲しかったのだ。
「さて、それはそうと……天音とどんな話をしたのか聞かせてほしいな」
「……う」
豊の体をそれまで以上にしっかりと引き寄せ、耳元で囁くと、豊の頬が目に見えて赤く染まる。
「勿論ある程度、どんなことを話したのかは推測できる、でも、やっぱり聞いてみないと分からないからね」
「……分かった、笑わないでね」
「はいはい、微笑む事はあっても、嘲笑はしないよ」
そういうと、豊は諦めたように、先ほど起こった事を話し始めた。




