1話 目覚め
ふと気が付くと私は暗闇の中に倒れていた。
「夜神星華よ目覚めなさい」
「嫌だ」
「……起きてるじゃん」
今は眠い。
「いや、だから寝ないで、ふざけたのは謝るから」
「……で、何してるの校長?」
今私の目の前に居る女子高生にしか見えない容姿のこの女はうちの学校の校長、一言でいえば変人だ。
始業式の日に独断で三尺玉を打ち上げて学校に居た全員の度肝を抜いたのは記憶に新しい。
「それじゃあ話そう、聞いて驚け、私の正体はこの宇宙を包み込む罪悪、アザトースなのだ!」
「だから何?」
「うわぁ、冷たい、もうちょっと乗ってくれてもいいじゃん」
「あーハイハイ驚いた驚いた、これで良い?」
「もういいよ、取り敢えずダンジョン作って貰うから」
「何をすればいい?」
何も知らされずに作るなんて無理じゃん。
「まあまあ、手作業で掘れなんて言わなから、取り敢えずこれ読んで」
なんか分厚い本を渡してきた……三千ページ位か、一時間あれば読めるかな。
「それで基本は全てだから」
「これ他の生徒にも一人ずつやってるの?」
「いや、見込みのある生徒だけだね、後は放送で一気に終わらせた」
分厚いダンジョンの手引きを開いてみると、最初にダンジョンマスターになるための試練があると書かれていた。
「これは?」
「適性試験だよ、まあ落とすつもりは無いから安心してね」
「で、何をしろと?」
「相変わらず硬いねぇ、女の子なんだからもっと色気を出せばいいのに」
そういう態度をとると男共が鬱陶しいんだよね。
「じゃあ試練だけどこいつを殺してもらうよ」
アザトースが手を振ると地面に魔方陣が現れ、棍棒と腰布を身に着けた緑色の肌の子鬼が現れる。
……なんだろうかこの気持ちは、汚らわしい。
「じゃあさっさとやってね」
「私の武器を返して」
「あの匕首だね、いいよ」
アザトースが投げてよこした匕首を空中で掴み取って軽く抜いてみる。
「紅に鈍く輝く刃、いつ見ても綺麗だね」
「もう何千人の生き血を啜って来たのか解らない、それが染み込んで刀身に吸収されたからね」
「……それ妖刀だよね~」
ほざく阿呆は措いておいて私は子鬼に向き合う。
「あ、そいつの名前はゴブリンね」
「どうでもいい情報をありがとう」
向かい合った途端子鬼はいきなり飛びかかってきて棍棒を振り下ろしてくる。
……予想の倍は早いけど問題ないね。
結構な脚力でジャンプして飛びかかって来るゴブリンの鳩尾に全力で水平蹴りをかます。
「……十メートル以上吹き飛んでる」
アザトースの言葉通り吹き飛んだゴブリンは壁に激突して止まる。
「…まだ動いてる」
「ゴブリンは繁殖力と体力だけが売りだからねぇ」
ゴブリンは最後の力を振り絞って特攻をかけようとして…敵を見失った。
「死ね」
一瞬で背後に回り込み、初めて刀を抜く。
【抜刀術・斬首、公開処刑】
ゴブリンの頭が地面に落ち、頭部を失った体は赤い血を噴き出しながら地面に倒れた。
「人間より丈夫で常人なら戦う事さえままならないゴブリンの首の骨がバターを熱したナイフで切る様に切断されてる……化け物だね」
失敬な、私はまだ人間だ。
「試練はこれで良いんだろう?色々と教えて貰おうか」
匕首を鞘に仕舞いながら言うとアザトースは簡単に言った。
「必要な事は本に書いてあるよ、マスター権限は渡しとくから、じゃあ頑張ってね~」
そう言ってアザトースはゴブリンの死体と共に消える……逃げられたか。
一息ついて本を見る……一時間あれば読めるとはいえ三千ページ、面倒だ。
匕首・・・要するにドスです、簡単に言うとヤクザが持ってるようなイメージのある奴です。




