191話 天軍を統べる者3
星華さんと共に部屋に戻ろうとする、豊さんを呼び止め、話があると言って、星華さんには帰ってもらった。
不承不承ながらも承諾してくれた彼女を、人目のない私の自室へと案内する。
明らかに怪しい事をしているとは自分でも思うのだが、彼女は疑う様子もなく部屋に入った。
「それで、天音さん、何の用?」
「その……ですね、星華さんの事について教えていただけませんか?」
「……惚れたの?」
「違います、あの人の行動を見ていると明らかに常人とは違う点があるので、何かあるのかと思いまして……」
彼女は明らかに普通の人とは違う点がある、具体的になにとは言えないのだが、立ち振る舞いなどを見ていると違和感を覚えるのだ。
「星華ちゃんが変わり者なのはいつもの事だと思うけど……私はちょっと猫っぽいって思ってる」
「猫、ですか」
「うん、星華ちゃん朝に弱いし、明るいとこで眩しそうにしてるし、耳が良いからだろうけど、煩いって言って寝室に時計を置かないし、好き嫌いはあまりないけど、食べない物は徹底的に食べないし……あと人混みには基本的に近づかないし、狭くて静かなところで本読んでることも多いし……」
「……確かに、猫みたいですね」
恐らく彼女は感覚器官が非常に鋭敏なのだろう、だから明るい所や人混みは好まないし、時計も歯車の音ですら騒がしく聞こえるのだろう……なにか、引っかかる、どこかでこんな症状を聞いたことがある気がする。
「他に、貴女が気付いた点はありませんか?」
「他ねぇ……あ、そうだ、物凄く記憶力がいいんだよね、今までに読んだ本ならタイトルを言えば、現物無しに読み聞かせしてくれるし、聖書の内容だって一字一句覚えてるらしいし……そういえばあまり弾いてる所は見ないけど、一度聞いた音楽ならピアノで演奏できるって言ってた……多分嘘じゃないと思う」
「それは……」
もはや凄いなどという状態を遥かに超越している、かつて神童と言われた作曲家モーツァルトは一度聞いただけで曲を暗記したというが、それと同等以上の能力を持っているのだろう……彼女の普段読む本を見ると、常人ではあらすじを言うのが精一杯だろうに。
……もしかして彼女は……いや、そうとしか考えられない、だが、断定するわけにはいかない、失礼を覚悟で聞きにいかなければ。
「……なにか、分かったの?」
「はい、ですが、本人に聞かなければ明言できません」
「一緒に行ってもいい?」
「……出来れば一対一で話させてください」
「そう、分かった、後で星華ちゃんに聞くから良い」
「ありがとうございます、貴女はこの部屋でくつろいで下さって構いません」
豊さんに、そう告げ、部屋を出て、あの人の部屋へと向かう。
これに関しては聞いておいたほうがいい……無意識のうちに彼女を傷つけることが無いように。