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星の煌めきしダンジョンで  作者: 酒吞童児
12章 黒い翼
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186話 黒い翼22

「でも、天音あまねさんは何でそんなにしてまで、人間を助けようとするの?」

「それは……」


 言い淀む天音に、事情を知る私は苦笑する、とよに話していない理由は簡単で、勝手に話す様な内容ではないからだ……豊も同じように、あまり知られたくない過去を持つ以上、そういう事を本人以外から聞かされたくはないだろう。


「天音、話したくなければそれでいい、でも、話してくれると嬉しい」

「……そう、ですね、聞いていて気分の良い物ではありませんが、話すとしましょう」


 そう言って、天音は軽く深呼吸をして、腰掛けていたベットに座りなおす。


星華せいかさんは知っていますから良いとして、豊さん、私たちが以前暮らしていた世界での、黒い翼と呼ばれる新興宗教を知っていますか?」

「黒い翼……知らないけど」

「知らなくても無理はありません、その新興宗教の事は情報統制されて殆ど表には出てませんから」

「その辺については私が話せるよ、色々働きかけて情報を抑えた側だからね」

「解りました、その前に説明させて下さい」


 天音の言葉に頷くと、彼女は豊に向き直る。


「私はその新興宗教、黒い翼の教祖の娘に生まれました……そしてそこで教育を受け、その言葉の通りに生き、結果多くの人間を苦しめる結果になりました……だから、私が人間を救う理由は贖罪です……私が何をやってもただの自己満足の偽善にしかなりませんが、それでも、私は人を救わなければならないのです」

「その……ごめん、言いたくなかったでしょ」

「構いませんよ、誰でも気になることでしょうし、本当に言いたくない相手には話しませんから」


 後ろめたそうな豊に、天音は笑いかける……自身の痛みも欲も全て仮面の下に覆い隠して、そして私は何も言わない、これ以上踏み込むのは危険だからだ。


「では、星華さん、黒い翼について話していただけますか、実際、私は詳しい事は知らないんです、何をしたのかは知ってますが、多くは教えられませんでしたから」

「そうだね……正直全てを知っている自信は無いけど、分かる範囲で話そうか」


 そう前置きをして、説明を始める。


「新興宗教、黒い翼、理念としては世界平和の実現ではあるが、その方法として世界に大混乱を引き起こし、その時に乗じて世界を支配し、管理するという危ない宗教の典型例みたいな奴だ……潰れたから奴だったと言うのが正しいね……因みに、武器の製造・密輸と密売、麻薬の製造、毒物の製作などにもかかわっていた」

「……凄い宗教だね」

「まあ、呆れるのが正常な反応だね……ただ、それだけだと情報が隠匿される事は無いんだよね」


 寧ろ他の新興宗教への見せしめとして魔女狩りが行われるのが通例だ、それが、情報統制まで行ったのには理由がある。


「情報統制が行われた理由は、世界に混乱をもたらす方法として、地震を利用しようとした所にある」

「え、地震なんていつ起こるか分からないじゃん」

「ああ、普通はなんだけど……黒い翼はそれを人為的に起こす方法を開発しようとして、その結果成功してしまったんだ」


 超音波振動と電磁パルス、爆薬などを利用して、断層に影響を与えるとかそんな感じだ……物理学に関してはそこまでの知識が無いので良くわからないのだが。


「……要するに、とんでもない技術を隠したかったって事?」

「まあ、そういう事、軍事利用なんてされたらたまらないし、テロ組織にわたっても困るからね」


 任意に大地震を引き起こせるとなったら、世界規模で混乱が起きるから、まあ、秘匿されるべき情報ではあったね。



「で、なんで星華ちゃんはそんなこと知ってるの?」

「……いや、黒い翼を潰したの、私なんだよね……丁度過激派な一神教の新興派があったから、唆して衝突させたんだよ」


 私の働いていた花街を仕切っていた姐さんは、裏社会につながりがあって、そこから潰してくれないかと依頼が来た。

 でもって、武力衝突が起きる時を裏から操作して、姐さんのコネを使って治安維持組織を派遣してもらって、一気に終わらせたんだよね。

 その火消しをしてる途中に、例の地震に関する書類を見つけて姐さんに渡したら、迅速に情報統制をおこなって、事件は闇に葬られたって訳だ。


「ああ……そうだったの」

「私にはそういう、国が表立っては動けない対象を潰したりする依頼が送られてきていたからね」


 国家機密などにも多く触れている私は危険分子扱いではあったが、利用価値の方が勝ったらしい……体格の良い男数十人でも、物理的に捕縛できないというのも野放しにされていた一因だろうが。

 ……国としては黒い翼よりも私の方が、危険な存在だっただろう。


「とはいえ、武力衝突により少なからず犠牲者は出た……互いにそこそこ強力な武器を持っていたから仕方ないし、正直自業自得だから別にいいんだけど、問題はうつほの親が犠牲者なことだね」

「星華ちゃん、そうなの?」

「そう、黒い翼側の犠牲者だね、だから、一神教を憎んでいるし、一神教の神に従っている天音の事も同じように憎んでいる……空は信仰には興味がないんだけど、それでも空にとっては裏切り者だからね」


 まあ、そのことに関しては仕方ない、どうにか収めるつもりではあるが、今考える事でもない。



「それに関してはどうしようもない、だから、これからの事に関して天音に頼む……仕事を少し減らしてくれ、計画を進める時間が欲しい」

「……解りました、怪しまれない範囲で減らします」

「豊はこれまで通りに過ごしておいて、私が勝手に動くだけならそこまで怪しまれないと思うから」

「わかった、バレないように上手くやっとくね」


 ……まあ、今の所はこんなものか、あまり一気に変えすぎると気付かれる恐れがあるしね。


「じゃあ、必要なことはこっちから頼むから」

「解りました、それでは」


 そういって天音は部屋を出て行った。


「星華ちゃん……」

「豊、気にすることは無いよ、過ぎたことは仕方ない、それに何時かは話さなければならなくなるからね」


 空が敵陣営に居る以上、何時かは知ることになる、今、それを出来たのは、悪くない。


「大丈夫、私が何とかするから」


 そういって豊の体を抱きしめる……彼女の為に、まずはこの戦争を終わらせて天軍への隷属を終わらせなければ。

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