184話 黒い翼20
帰りは転移ではなく、徒歩で帰ることにして、その間に今後について話すことにした。
「星華さん……一応聞きますが、一日で帰れる距離ですか?」
「大丈夫、急げば間に合う」
「敵国の方が近いんですよね?」
「そうだね……山と森があるから、軍での移動には時間がかかるけど、実際の距離自体は対して長くないからね」
軍の移動でも、片道三日程度で着く程度の距離なのだから、二人でなら身軽だし、そう時間はかからないだろう。
「……話は変わりますが、貴女にしては甘い対応でしたね」
「アイツの処遇か……いつでもダンジョンの機能を停止できるようにすれば、ダンジョン外に侵攻できなくするという、目的は達成できるからね」
「……それと同時に、疑似ダンジョンコアの性能のテストもできますね……それと、貴女の本当の目的はダンジョンコアを集めることで、危険なダンジョンの排除は建前ではないかと思うのですが」
「……もし、そうだったら天音はどうするの?」
否定はせず、疑問で返す、それだけで天音には私の答えは通じたようだ。
答えは、よく推察したと言った所だ、ダンジョンコアは大量の魔力を貯める器として、非常に高い性能を持っている……私が作った疑似ダンジョンコアには、そこまでの容量は無い、もっとも、そこそこの容量はあるのだが、普通のダンジョンコアは底なしともいえる容量があるのだ。
「何もしません……人に害を為さない限りは」
「まあ、天音はそう答えるだろうね」
出来る限り多くの人を助けようとする天音だからこそ、その答え以外はありえない。
……出来る限り多くというが、状況によってはより多くを救うために少数を犠牲にすることを躊躇はしない、心を痛めながらも、その選択に迷いはないし、後悔もしない……私とは違う圧倒的な心の強さを持っている。
「……天音、私の目的は前に話したね」
「はい」
「私は、人に対して理不尽な行為や、支配を行う上位者の干渉に終止符を打つ……天音に協力を頼みたい、だが、協力が無くても私はそれを行う、それは決定事項だ」
「……何事にも良い点と、悪い点があります、それを全て聞かせてください……それが無ければ判断は出来ません」
……耳を塞いでいれば、私の行為の結果を、何の罪も負うことなく得ることが出来る、それを分かって居ながらも、計画の内容を聞くことを選択したのだ、話さないという選択肢は無い……例え敵に回ることになるとしてもだ。
「……出来れば、豊にも一緒に聞かせたい」
「ですが、あの国は天使の監視が厳しいですよ」
「問題ない、その程度の監視は魔術で覆い隠せる……その程度できなければ、こんな計画を作りはしない」
「……解りました」
「じゃあ、歩いて帰る時間が惜しい……この事を聞くために、歩いていたんだけどね……さあ、転移するよ」
天音の腕を掴んで、転移の術式を瞬時に構築する。
……さて、天音はどちらに付くことを選択するだろうか。