181話 黒い翼17
天音を連れて目的のダンジョンへと転移してきた。
深い森の中にある、その洞窟の入り口は侵入者を待ち構えるように、その口を開けている。
「……ここですか」
「ああ、不死者が大多数を占める厄介な領域になっている、気を付けてくれ」
少し中へと入ると、直ぐに骸骨共が群がってくる。
だが、私達には大したことの無い相手で、軽く薙ぎ払い、再生しないように、燃やしながら奥へと進む。
「このスケルトンは……」
「直接召喚したのもいるだろうけど、侵入者の物もあるみたいだね」
骨に焦げ跡があるものは、きっとそうだろう、死体をスケルトンにするためには、当然骨でないといけないから、肉を燃やして骨を集めたのだろうな……一体のスケルトンに数人分の骨を使っているのは、破損したときの修理や、骨を得るときに壊れたものを補ったからだろう。
「……そうですね」
悲しそうな天音に苦笑し、軽く返す。
「まあ、ここの屍達に魂の反応は無い、ただ魔法で動いているだけだろう」
本当に霊を憑依させるのは、魔力も多く必要だし、維持にも魔力を使う……その上暴走しやすいから、上層の雑魚にはやってないだけで、下層に進めば、そういう奴もいるかもしれないが。
順当に奥に進み、下の階へと降りると、妙な敵が現れだした。
上半身が人で下半身が馬の骸骨や、腕が六本ある人間のようなもの、人の足が蜘蛛のように八本生えていたりといった具合だ……まあ、全て骨だけだから、大して強いとは感じないのだが。
「星華さん、これは一体……」
「死霊術で作った、キメラもどきだろうね、足が多いのは安定性が高いけど、それだけだね」
「ゾンビのほうが耐久力もありそうですが……」
「そうだけど、まあ、その分動きが遅くなるからね」
肉がついている分、ゾンビのほうが耐久力はある、だが、当然重量が増えて動きが鈍くなるという弱点もある……ゾンビとして使うなら、動きが鈍くても問題ない程の巨体を持つ、ドラゴンの様なものの方が良いだろう……どのみち時間がたてば、腐り落ちて骨だけになるけど。
その後も順調に進み、ボスが待ち構えていそうな雰囲気の、大きな扉の前にたどり着く。
「……行こうか」
「はい」
扉を開けると、部屋の中には、一つの骸骨がただ転がっていた。
「これは……勘弁してくれ」
これはどういう事だと言おうとした瞬間、床から非常に小さな、体躯の透き通った虫のようなものが出てきた。
一ミリにすら、届くことの無い程小さな虫は、壁や天井からも次々と現れ、骸骨に群がっていく。
やがて骸骨を完全に覆い尽くしたと思った時、それが立ち上がった。
「星華さん、これはまさか……」
「骸骨を器にして、動かすあの虫の群れが、このダンジョンのボスなんだろうね」
虫といったが、実際には、非常に小さいスライムに近いようだ、それらが骸骨を器にして、粘菌のように一つの意志を持った群体として動いているのだろう。
そうしている間に、骸骨が、地面に落ちていた、一メートル半はありそうな両刃の直剣を拾い上げる。
「やるしかないね、天音、行くよ」
「はい」
私たち二人も武器を構え、臨戦態勢に入る……そうして、このダンジョンのラスボスとの戦いが始まった。