179話 黒い翼15
天音の命令の、兵士たちの訓練を一時中断し、少しの間休憩をとる。
「星華さん、どうでしょうか?」
「兵士の事ならそうだな……私が訓練する意味は無いな」
「それは、合格という事でしょうか」
「いや、兵士を止めたほうがいい……マーガレットの所の軍なら、四分の一以下の人数で、同等以上の戦力になるだろう」
数だけは多いのだが、質が非常に悪い……戦力は多くなればなるほど有利だが、数が増えるにつれて、有利さの度合いの上昇は控えめになっていく、遊兵が多くなるからこれは当然と言える。
質の悪さに関して、説明するのは簡単だ、徴兵によって集められた兵だから、正直言って武器を持った一般人に過ぎない……でもって訓練にやる気がない上、危機管理能力も低い。
「……もう少し何とかなりませんか?」
「実力自体は底上げできるけど、英雄病患者は無理」
「……なんですかそれ」
「中二病の亜種みたいなもの、何があっても自分だけは助かるし、成功できると謎に信じてる阿呆の総称」
「ああ、実力の無い人に限って、そういう所ありますよね」
「普通の生活なら持つことの無い、強力な武器を持つことがその原因かな……あと訓練だけで実戦経験がない人とか」
後者は仕方ない、ルールに守られた訓練しか知らなければ、現実を甘く見るのも当然と言える。
「……治療法はあるのですか?」
「劇薬でよければ」
「具体的には?」
「私が本気で叩き潰して、実戦だったら死んでたって程度の事を何度も経験させる……心が折れるかもしれないし、精神に傷が残りかねないけど」
「……もう少し弱めのはありませんか」
「座学で戦場の厳しさを教える手もあるが、阿呆は体に叩き込まないと覚えないと思うな」
座学で語った所で、自分だけは大丈夫と信じている奴には効果は無い、だが、痛みと恐怖で刻み込めば、いい感じに自信を失ってくれるだろう。
「星華さん……劇薬の投与をお願いします」
「了解、で、天音の訓練はどうする?」
「無論、優しくしないでください」
「電気は使わないでほしいんだけど」
「解っています」
まあ、私としては、電気を使ってもいいんだけど、それだと、ひたすら逃げ回りながら遠距離の攻撃魔法や荊、投擲武器で戦うことになるし、それはなんか違うからね。
……まあ、本気で殺しあうことになったら、すごい泥仕合になるだろうけど。
「では星華さん、やりましょうか」
天音が立ち上がって、あの独特の形状の武器を軽く振るう、何気ない動作だが、それでも風を切る音がする以上、先端はそこそこの速度になるようだ。
「相変わらず、気が早いな」
「貴女が、適当なだけでしょう」
「ああ、違いない」
私も苦笑して立ち上がり、匕首を抜いて軽く空を薙ぐ、妖刀も、私にとっては壊れない武器という程度だが、非常に力の強い私にとっては非常にありがたい……質の悪い武器だと、力が強すぎて簡単に壊れてしまう……扱いが下手だと言われればそれまでなのだが、そこそこ使える自覚がある以上、丈夫な武器を使うしかない。
「さて、やるか」
「お願いします」
兵士は雑魚だったが、天音はそうもいかない、それなりの才を持ち、鍛錬を欠かさない性格なので、実力は非常に高いと言える。
……まあ、楽しむとしようか。