175話 黒い翼11
「……こんな所か」
転移を使い倒し、複数方面から攻めてきていた小隊のほぼ全てを追い返して、一息つく。
小隊とは文字通りに少人数で構成される部隊で、大体、十人から五十人程度の規模の物を指す……という事を最近学んだ、こっちの世界に来てから、軍を動かす必要がある可能性が出てきたため、付け焼刃ではあるが、書物を読み漁って最低限の知識は得ているつもりだが、あまり自信はない。
ある程度は機械があるとはいえ、実戦で使われるのが弓や剣が基本であるこの世界において、基本的に数の差を覆すのは難しい……その状態で敢えて小隊を使うのは、隠密性はあるものの、決定打には欠けてしまう。
「だから何かやってくるとは思ったけど……」
私が追い返した、ほぼ全ての小隊の荷物には爆発物が入っていた……一つ何もない場所に設置して、魔法の火で着火したところ……地面に深さ五メートルはありそうなクレーターが出来た。
……空、本気だなぁ。
設置と言っても、普通に地面の上に置いただけなのにこの威力とは、爆発音も凄かったし、衝撃波も感じた……爆発物の印が書いてあったから、爆弾だとは分かったけど、材料に何使ってるんだろう。
今更だけどこれ作ったの空だよな……彼女以外に爆弾技師を知らないし。
……あの国の城壁ぐらいならこの爆弾一つで十分だよな、一応石材の壁だけど、正直金属の壁でも壊れそうな気がする……この爆弾、一つの小隊が、十は持ってるし。
誤爆の危険はないのかと心配にもなるが、問題ないだろう……空がいつも使っている、起爆装置が存在せず、私みたいに魔法などで直接着火するように作ってある、まあ、単純に火薬を容器に詰めただけの非常に簡単な作りの爆弾だ……威力はすごいけど。
「現実逃避をしていても、仕方ないな……やるか」
私が奪った天使長の眼による情報の中に、最後に残った小隊が映されている。
……爆弾を作った張本人である空と、もう一人はアザトースと同じクトゥルフ神話の邪神である、クトゥグアの断片、紅蓮の二人だけのようだ。
方や神殺しの力を持つ、加具土命の神威を持ち、もう片方は、本来であれば世界そのものを焼き尽くせるほどの存在だ……二人だけではあるが、そこらの軍を遥かに上回る破壊力がある。
鬼の力を持つ私でも、出来れば避けたいのだが、仕方あるまい……余裕がないから大分手荒になるが帰ってもらうとしよう。
丁度よく、少し開けた場所に居るようなので、何度も使った転移を再び発動する。
何時ものように扉が開き、私は軽い浮遊感と共に、目的地へと移動した。