172話 黒い翼8
数日が過ぎ、天音の宣言通りにこき使われていると、天音が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ようやく来たのかな?」
「敵側は現在進軍中です、見張りにより発見され、私が排除を命令されました」
「ま、押しつけだね」
「貴女の本来の役目です、行ってください」
私は肩をすくめて場所を聞き、その場所へを転移した……天音の腕をつかんだまま、結果、天音も一緒に飛ぶことになる。
「何故私まで……」
「敵が来るまでにはもう少し猶予があるからね、天使の命令を正しく伝えてもらおうか」
命令の内容次第では、曲解したり、利用することもできるからね。
「こちらへ来る敵勢力の脅威を排除するようにとのことです」
「私にとっては、敵じゃないとか屁理屈言ったらだめ?」
「……その場合は私が排除する事になります」
「……あ~、駄目だね、天音だと加減できない」
相手が本気な状況で、殺さないように加減できるのは相当な実力差がある者ぐらいだ……天音も強い事には強いが、軍を相手に加減する余裕はないだろう。
「貴女なら、軍を相手にしても問題ないですよね」
「私なら、広範囲への攻撃が可能だからね」
ニャルラトホテプを取り込んだ影響で触手のように滑らかに動くようになった荊を使えば、大群でも軽くあしらえるからね……実際は多く出しすぎると制御が難しく、動きが悪くなるから、少ない数を盾代わりに使うほうが便利なんだけどね。
「貴女のその荊は、天使たちも頭を悩ませていたのですよ……広範囲に素早く展開できる以上、通常の兵どころか、天使でも下位の者は相手にならないのですからね……その上、転移魔法を扱えるのですから、危険度は計り知れません」
「転移魔法に関しては、アザトースが出たり消えたりするときに使ってるのを、解析して模倣してるだけだからね、暴食の力でエネルギーを貯め込めるから、こんな風に軽く使えるけど、普通なら短距離を一回移動しただけで魔力が枯渇するし」
まだまだ荒い所があるから、要改善な魔法だけれど、術式がそこらの魔法とは桁が三つぐらい違う複雑さなおかげで、まともに改造できない……私も魔法の失敗で死にたくないし。
「……どうやら来たようですよ」
「そうだね、じゃあ、天音は待ってていいよ」
そう言って、私は現在進行中の軍隊の前に姿を現す。
「これは……どうやら運がなかったようですね」
「いや、まだましだと思うよ……どうやら隊長みたいだね、久しぶりだね、碧火」
かつて太公望と呼ばれた軍師、それがここにいるという事は……結構厄介なことになって居そうだ。
……まあ、私は命令を遂行するだけだが。