165話 黒い翼1
少し日付が進み、丹炉も完成して、ある程度薬丹の作成を行った。
決めたはいいが、さすがに言い出せず、色々と考えてしまう……もちろん豊は私の思いを無視することはありえないから、私自身が決断を下すしかない。
だが、そうはいかなくなった……天軍が攻め込んできたのだ。
「マーガレット、準備は?」
「迎撃準備はすでに整っています……貴女が発見していなければ、大変なことになるところでした」
「……そう」
今回は、私が設計した龍脈の力を利用した防衛設備を使用している。
それは結界だ、この町一つを完全に覆い、守れる大きさと強度の結界を張るのは、普通の人間には無理だし、私だって一秒程度持てばいいほうだ……それを半永久的に発動できるのだから、地下に流れるエネルギー脈の力がうかがえる。
因みに使いすぎると、世界のエネルギーが枯渇するのだが、今回はエネルギーをしっかり還元しているので問題ない……そもそも、私たちが汲み上げているエネルギーなど、全体から見れば誤差に等しい量なのだが。
「豊はマーガレットと一緒に居て、多分一番安全だから」
「解ったよ、星華ちゃん」
「……私も戦いに参加したいのですけどね」
「気持ちは分かるけど、マーガレットは陣営の奥にいて、豊とマーガレットは浄化系統の魔力だから、天軍には効きにくい」
私の魔力は不浄、周囲をゆがめ、命を蝕む程の瘴気、天軍と互角に戦うには、それと同等以上の魔力があるか、相性が良くないとだめだ。
天軍の魔力は浄化、不浄の魔力の天敵と言われるが、実際には互いに効果が高い。
要するに食らえば痛いが、当たればよく効くということだ。
「星華ちゃん、大丈夫だよね」
「どうしたの?」
「なんか嫌な感じがする」
「そう、なら気を付けるとするよ」
天使長の眼を使って調べると、既にすぐそこまで来ている、結界があるとはいえ、破られる可能性もなくはない、行くとしよう。
「……こいつは、なかなかの数だな」
門を出て、天軍と対峙する……結界内からのバリスタによる援護はあるが、基本一人だ、多少腕が立つ程度ではすぐに死んでしまうだろうから仕方ないのだが。
「天軍よ、私はあまり犠牲を出したくない……出来ればこの場で引き返してくれるとありがたいのだが」
「汝、力を持つ者よ、我らとて被害を出したくないのは同じ……ここは敗北を受け入れてはくれぬか?」
「いや、私にそのような決定権はない……引かないのであれば、力ずくで帰ってもらうとしよう」
話しながら確認したが、天音はいないようだ、これで心置きなく戦えるな、巻き込む心配をしなくて済む。
「荊よ、蹂躙しろ」
私の魔法によって作り出された無数の荊が、命令を受けて戦場を叩き潰す……そもそも一対多の戦いだ、この程度は当然だろう。
それにしても、ニャルラトホテプを取り込んでからというもの、荊の扱いが楽になったな……おそらく触手を操る能力が影響しているのだろうな……これなら数を増やしても大丈夫そうだ。
「荊よ、縛れ」
これまた簡単な命令に従って、体力の減った天使から拘束されていく。
……何か変だな、まるで時間稼ぎをしているよう……まずいな。
天使長の眼で確認すると、天使の視界の一つが、マーガレットを映していた。
「荊よ、命令を継続しろ」
荊の維持を行ったうえで、転移を発動する……一度失敗したが、二度目は成功したようだ。
転移先での光景を見て、思わず舌打ちをする。
「命令、豊、動くな」
私の命令で動きを縛られた豊は、今まさにマーガレットにナイフを向けているところであった。