163話 閉じられた瞳24
「……それにしても豊があのことを話すとは思わなかったな」
「なんとなく言っておいたほうがいいような気がしたから」
そうか、豊がそういうならそれが最適なのだろう、豊の勘は九割程度あたるからね……残りの一割は私が阻止した災難だったりするし。
……だが、意外であることには変わりない、何か頼み事でもしたのだろう、あんな話を聞かされたら断れない気持ちになるからね……そして豊は無自覚でやってるみたいなんだよな。
「ていうか、星華ちゃん、なんで私が昔の事話したって知ってるの?」
「推測、こんなタイミングで、私に聞かれないようにマーガレットに話すことなんてほとんどないでしょ」
「そーだね」
豊への疑問が終わったところで、マーガレットから質問が入る。
「貴女と豊さんが出会った経緯について気になるのですが」
「まあ、気になるよね……豊、話していい?」
「ああうん、別にいいよ」
許可が出たところで、マーガレットに向き直る。
「さて、私が以前花街で働いていたことは話したっけ……まあ、話してなくても今話したってことで……言っとくけど用心棒としてだよ。
その付き合いで色んな所の食事会に呼ばれたりしたんだよ……花街を総括してる女傑の姐さんのお気に入りでもあったしね……その呼ばれた先に豊の居る神社があったんだよね」
「へー、そうだったんだ」
「あれ、豊にも話してなかったっけ」
「初耳のような、そうでないような……」
「まあいいんだけどね、ここまでは前提だし」
話を戻そう。
「そこで豊と出会ったんだけど……あれって納屋と座敷牢どっちなんだろ?」
「さあ、両方じゃないかな、最低限の快適さはあったし」
「じゃあ座敷牢って呼んどくか、宴会に早々に飽きた私は敷地内を散歩してたんだけどね、なんか人の居そうにない納屋っぽい建物から人の気配するんだよ……まあ、その神社の裏については耳にしてたからね、誰がいるのかは知ってたよ」
もちろん電気なんて繋がってないから真っ暗だった。
「なんとなく気になったから、扉を施錠してる南京錠をピッキングして入ってみたんだけどね……そこで豊が思いっきり熟睡してたんだよ」
「……それは何というか、その」
「マーガレット、はっきり言っていいよ……うん、相当図太いよね」
何かを気にしない性格なのはいいが、なんだかなーって気分になる。
「まあ、私が入ってきたのに気付いた豊と、少し話をしてね……色々省いて結論だけ言うと、出してほしいって頼まれてね、そうすることにした」
「……できるのですか?」
「そう、さっき話に出てきた姐さんに頼んでね……姐さんも自分の意志以外で娼婦にされた人を放っては置けない人だし、あの家には私個人の貸しもあったからね……割と簡単に話は進んだよ」
まあ、今思えばあそこまでやるかと言われそうなやり方だったな、完全に逃げ道を封鎖した上で、私という圧倒的な暴力をちらつかせた交渉を断れる人はそう居ないだろう。
「さて、このくらいで十分かな」
「はい、これ以上は聞かないほうがいいでしょうね」
「そうしてくれると助かる」
そういって席を立って、豊に話しかける。
「豊はどうする、私はいったん帰るけど」
「私も一緒に帰るよ」
「そう、じゃあ、マーガレット、無理はしないように」
そういって豊を抱き寄せ、転移術式を起動した。