160話 閉じられた瞳21
日付が変わり、マーガレットの部屋に向かう……もっとも、目的の相手ではないのだが、居場所が分からないのだから仕方ない……それと、豊も街を歩いてみたいと言っていたから、問題はないと判断して許可しておいた。
……自分でも忘れそうになるが、豊は私の奴隷だから、一定以上の行動には許可が必要だ……できるだけ広義に解釈できる許可を与えてはいるが、それでも、たまに許可外になるケースがある。
マーガレットの執務室に入ると、机の上に積まれた書類を黙々とこなしていたマーガレットが顔を上げる。
「ああ、星華さん、久しぶりですね」
「そうだね、少し用があって、聖神国に行ってきたからね」
「……何かあったんですか?」
「ちょっと天軍と喧嘩してきた」
そういうとマーガレットが溜息を吐く……まあ、気持ちは分かる。
「結果は……貴女が、生きてここにいる事が答えですね」
「そうだね、無駄な質問が必要ない事は助かるよ……書類手伝おうか?」
「……今まさに必要な書類を増やした張本人に言われたくないです」
まあ、そうなんだけど、書類が雪崩を起こしそうな程積もってるのは、何とかするべきだろう……まじめにやったら、マーガレットが倒れる……か、壊れる。
「ほかの人でも、処理が可能なものはさっさと押し付けたほうがいいよ……この辺は押し付けてもいいやつだね」
ある程度は分類されている書類の山の、半分程を抜き出して、部屋の前の廊下を通った宰相に全部押し付けた。
「……流石に押し付けすぎでは、ないでしょうか」
「良いの良いの、宰相も適当な人に分割して押し付けるでしょ……第一、その倍の量を一人で処理しようとするのは間違ってるよ、私と違って人徳はあるんだから、無理な部分は押しつければいいんだよ」
「星華さん、貴女にも人徳はありますよ」
そうマーガレットは言うが、私は笑って首を振る。
「いや、人が私に従うのは、私の事がただ怖いからだよ……私は、ほぼ全てのモノを息を吐くように破壊する事が出来るからね、その私の機嫌を損ねたくないから、人は私に従うんだよ」
「そんなことはありません、貴女の事を慕ってくれる人もいますよ」
「まあね、そりゃあ、だれからも好意を受けない人間なんて居ないさ……でも、マーガレットはこの国の人々に慕われてるんだよ、それはマーガレット自身の行為によって築き上げた人徳の結果だ」
国の上に立ち、多くの事をできる権力を持ちながら、それを自分の為には殆ど使わず、国をより良くするためにその身を酷使する彼女は、全ての国民から敬意を受けている……そしてそれは、マーガレットに反対する人々も例外ではないのだから。
だからこそ、危うい所がある彼女の為に私が動いているのだ。
「……ところで、碧火を知らないか……この国の中枢で働く見習いを育てる、華相院に居るかと思ってたけど、居なかったんだよね」
「そうですね……おそらく南の海辺にいると思います、考え事をするのに釣りが最適だと言っていましたから」
「そう、じゃあ行くね、仕事頑張ってね」
そういって部屋を後にする……釣りか、最近肉料理ばかりだし、私も釣り竿を持っていくかな。