159話 閉じられた瞳20
私が渡した小箱を開けた豊が、驚いた顔をする。
「……ピアス?」
「そうそう、ノンホールのだけどね」
「結構センスあると思うよ」
まあ、何度も見た事はあるので、その記憶を基に作れば、そこまで変になるとは思って居ない。
……大事なのは豊に似合うかと言う所だ。
試しに、一度つけて貰うと、サイズ的にはぴったりだし、そこまで悪くも無い、ただ……。
「やっぱり髪の色と少し合わないような気がするね」
「星華ちゃん……気にしなくて良いよ」
「いや、流石にもうちょっとは拘らせて……じゃないと、豊がセンス無いって思われる」
改めてみるが、涙型の青い魔石の主張が非常に激しいのだ、何とかならないものか。
「涙型の魔石のてっぺんの金具で固定してるから、むき出しの部分が多いんだよね……これだと宝石が目立ちすぎて、引き立て役にはならないなぁ」
「星華ちゃんになら、似合うんじゃないかな……綺麗な黒髪だし、私より美人だし」
「……確かに私の髪は、黒曜石とか言われるぐらいだから、似合うかもしれないけど、それは豊への贈り物だからね」
……そうだな、魔石の露出を減らせばいいか。
いったん外してもらい、涙型の魔石の一番下から、三本の線を植物の蔓が巻き付く様に、螺旋状に入れてみる……金属を魔法で操作すればいいが、巻き数を良い感じに調整するのが難しいな、巻き付き加減が少なければ主張が激しいままだし、多ければ今度は魔石が見えなくなる。
何度か調整して、いいバランスになったのを確認してから、再びつけて貰う。
豊は、手鏡でじっくりと確認ながら、嬉しそうに笑っている。
「うん、これなら普段使いでも大丈夫だね」
「あはは、私はあんまり普段使いは嫌かな……恥ずかしいし、目立ちたがりに見られそうだし」
「分かってる、冗談だよ」
「むしろ私としては指輪が欲しかったな~……なんてね」
豊の言葉に少し固まる……冗談めかしているが、完全に本心からの言葉だ、そして私がその思いに応えない理由は無い。
「ごめんね、センスに自信が無いから指輪は作らなかったんだよ……でもいつか絶対に作るから、その時は受け取って欲しい」
「うん、いつでも待ってるからね」
「……ありがと」
センス以外にも理由はある……ずっと付けていられる物だから、最高の守護の効果でも付与しておきたいものだが、基本的に攻撃系の魔道具研究を優先していたため、守護系統の魔道研究は基礎レベルしか出来ていない、アリーにも協力してもらっているが、まだまだ満足できる領域までは、達していないのが現状だ。
魔道具関連は、聖神国のバックにいる天軍対策にも必要だし、そっちにもリソースを割く必要がでている……痛手を負わせたので少し余裕は出来ただろうが、それでも優先する必要がある事に変わりは無い。
……その為、非常に不本意ではあるが、豊への指輪に着手するには、少し時間が掛かりそうだ。
とまあ、ここまでの理由は美術系統の能力不足による、苦手意識の良い訳ともいえる……聖神国の部分は事実でもあるが。
「別に気にしなくても良いよ……星華ちゃんがくれたのなら、多少下手だったとしても大事にするから」
「その気持ちは嬉しいんだよ、でもね、自分的に満足いってない作品……それも指輪を、プレゼントするってのは、ちょっとね」
そう言って誤魔化す様に、豊を抱きしめてその頭を撫でる。
気持ちよさそうに、猫みたいに目を細める姿がとても可愛らしい。
というか、この感じ……もしかして。
「豊、寝てないみたいだけど、どうしたの?」
「……ここ数日、星華ちゃんが心配だったの」
「ああ、予定より帰るのが遅くなったからね」
確かに豊には可哀そうな事をしたな……この後は、一旦マーガレットの所に行く積もりだったが、まあいい、今日は豊とゆっくりするとしよう。
「豊、寝よう……一緒に居てあげるから」
「うん、わかった」
素直に頷く豊を抱き上げて、ベットまで運び、一緒に横になる。
直ぐに寝息を立て始めた豊に、私もだんだんと眠くなっていった。