158話 閉じられた瞳19
アザトースと少し話すための場を得るために、私のダンジョンまで中途半端な場所まで歩いて来たし、此処から転移をわざわざ使うのもどうかと思う……いや、アザトースとの話は短いが必要だった、仕方ない、歩こう。
ダンジョンまで、入り口が低い山の上の方にある為、道は険しいが、直線距離はそうでもなく、案外直ぐに辿り着いた……宗教国家の聖神国がある、北側から帰って来るのは初めてだったから、距離感がはっきりしてなかったんだ。
「豊、ただいま~」
「あ、星華ちゃんお帰り……随分遅かったけど何かあったの?」
いつも通り過ぎると思う程、驚いた様子の無い豊に苦笑する。
「いや、ちょっと天軍と喧嘩してた、その時豊をダシにしちゃったから、謝っとく」
あの時、私は別に本気で怒ってはいない、好ましい発言では無い物の、豊個人を指して言った訳では無いのだから、別に無視しても良かった。
だが、天軍の眼を奪う計画を早めるのと、私の沸点を低く見せる為に利用したに過ぎない。
「別に良いけど……何やってるの?」
「天使長サマの眼を奪ってきた」
「……本当に何やってるの、星華ちゃん」
「あはは、まあ、これにはちゃんと理由があるよ」
豊にメタトロンの眼を奪った事と、それによる利点を説明する。
「……要するに、それで天使達を一方的に監視できると」
「そうだよ、居場所も分かるから、殲滅だって簡単に出来る」
この眼がある限り、私から逃げる事は出来ない、宇宙空間の様に、私が物理的に行けない場所以外は。
私が、天軍を完全に滅ぼす事を躊躇するなどと思って居ないだろうが、もしそう思って居るなら、天軍はその判断を深く後悔するだろう……いや、後悔する暇もないかな。
「それで、豊は天軍をどう思う?」
因みに、喧嘩の原因にした発言については伝えてある。
「どうでも良いと思うよ……手を出してこなければ」
「分かった、そんな感じで対処するよ」
私としては潰しても良いと思うけど、豊がそういうなら、何かしてくるまでは生かしておくとしよう。
豊の判断は、案外上手くいくことが多いからね……逆に私の判断だと、目的は達成できるけど、立場は悪くなることが多い。
別に私の立場はどうでも良いが、そうなると豊が悲しむし、面倒事も増えるので、出来るだけ避けたい……まあ、結末までの道筋が少し変わるだけだ、結末は既に決まって居るのだから、私はそこに向かうだけでいい。
その為なら、どんな奴にでも頭を下げるし、従いもする……だが、私が豊の為以外に動く事は無い、例えマーガレットや、輝夜、天音であっても、豊に危害を加えるのであれば、私は容赦なくこの刃を向けるだろう。
まあ、そんな事は置いておくとしよう。
「そんな事より……豊、暇だったから、プレゼントを作って来た……センスが皆無なのは許して」
そう言って豊に小箱を渡した。