157話 閉じられた瞳18
「それでは星華さん……貴女の平穏を祈っています」
朝になり、出発の準備を終えた私に、天音が言うが、私は苦笑するしかない。
「私に平穏が訪れるのは当分先だろうね……この一件で天使には目を付けられただろうし、アザトースも私の事を気に入ってるみたいだしね」
「……それはまた厄介な相手ですね」
アザトースに目を付けられているとしても、私程では無い天音が少し羨ましいが、彼女がアザトースに気に入られなかった事を喜ぶべきだろうな。
とはいえ、天音とアザトースが折り合う事は殆ど無いと言っていいだろう……救世主と愉快犯だから当然だが。
「天使はまたこの街にやって来るでしょう……その時は、貴女にお知らせします」
「ありがとう、常に対策はしているけど、ある程度動向を知れるのは非常に助かるよ」
天音の頭を撫でて、頬に唇を当てて、軽く舐める……少しは嫌がるかと思ったが、案外気にしていないようだ。
「たまには子ども扱いも悪く無いですね……貴女にならの話ですが」
「そうだね、私も少しはそうして欲しいよ」
「それは難しいでしょう、貴女は子ども扱い出来るような、見た目や雰囲気ではありませんから」
「そうだろうね」
このままでは何時までも話して居そうで……正直そうして居たいのだが、それはまたの機会にして、話を切り上げる。
「それじゃあ、またね」
「はい、またお会いしましょう」
天音と別れた後、少し歩いて、私のダンジョンの入り口がある山の、川辺の倒木に腰掛け、空中の一点を見据える。
一見何もない空間だが、天使長の眼に切り替えて見ると、僅かに歪んでいるのが見える。
「アザトース、言いたい事があるなら出て来い」
目を元に戻して呼びかけると、空間の歪みからアザトースが出て来る。
「随分便利な力を手に入れたみたいじゃないか」
「お前が嫌いな神の力を奪ったんだ、文句は無いだろう?」
「ああ、無いね……だけど、あんたが、何を目的にしているのかは知りたい」
「話す必要性を感じない」
「ああ、そう……まあいいか、そのうち分かるし」
案外あっさり諦めたな……何か企んで……いや、それはいつもの事か。
「案ずるな、アザトースの計画には協力してやるさ……その代わり私の計画に口を出すな」
「分かってるよ」
「それならいい……そろそろ帰るから、余り覗くなよ」
それだけ言って、立ち上がり、アザトースを無視してダンジョンに帰る。
……それなりの期間待たせた豊に謝らないとな。