153話 閉じられた瞳14
突如放たれた、横なぎの一閃に素早く後ろに下がる、だが、天音……いや、ネメシスは体が付いて行かなかったようで、もろに食らってしまう。
「ネメシス」
「我は問題無いが、この娘の体に負荷をかけられ、痛みを感じている……どうやら、我の魔術と同じ、断罪の系統のようだ」
……そういや、私も少し掠った気がしたと思って居たが、効果が無いだけで、実際当たって居たのか。
だが、何故私には効果が無い?
自分の正義に対し、絶対の自信を持つ天音に効果のある技となると、神の基準で罪を裁いて、罰として苦痛を与えて居るのだろう……だが、それならば私にも効果がある筈だ、何かを見落としている気がする。
「ほう、貴女は回避したようですね、ですが次は躱せませんよ、この刃は、全ての人の罪を等しく裁くのですから」
「はは、出来るモノならやってみれば良い、無駄だろうけどね」
分かってしまった、私に神の刃が効かない理由が、そしてその答えは、私自身を見失いかけるものだ。
以前アザトースは私の母の名を五月姫と言った……そしてその名前に私は覚えがあった。
「昔……一人の姫が居た、彼女は力ある貴族の娘で名を五月姫と言った」
「何を言って居るのですか?」
メタトロンが本気で戸惑っているが、私の言葉は止まらない。
「しかしある時、彼女の父は殺され、首を取られてしまいました」
ここからが彼女の話で有名な所だ。
「復讐を誓った彼女は、毎夜の丑三つ時に、頭に五徳を逆さに被って蝋燭を灯し、髪を固めて五つの角とし、霊力のある神社に参った……そして、神に呪力を授けられ、鬼となった彼女は、滝夜叉姫と名乗り、反乱を起こした」
「ただの御伽噺ではないですか」
「いや、そうではない……どういう因果かは知らないが、彼女は最近子を産んだ……それが私、私の半分は人じゃない、鬼だ」
父の名は知らないが、恐らく常人では無いだろうな。
ともかく、私は平将門の孫となるようだ。
……豊が聞いたらなんと思うだろう……案外何とも思わないかな。
「天使長メタトロン、今なら見逃しても良い、帰る気はないか?」
天使の事は大事だが、今は気持ちの整理をしたい……自分がそもそも人では無いという事について。
「駄目だ、貴女をここで見逃す事は出来ない」
「だろうね、私の出生を知った以上、危険分子として排除するしかないよね」
……例えどんな相手であっても……それが忌み嫌っている相手でも、存在自体が完全な異常扱いされるのは悲しいな。
「でも、私は自分の出生を理解して、今まで理解できなかった、私の力の由来を認識した……貴様等に負けるなど、私の血が許さないだろう」
私は言葉と共に、生まれた時から身に宿していた筈の力を、天使に向けて解き放った。