152話 閉じられた瞳13
ネメシスの放った強力な波動に、体が一瞬浮かび上がるような衝撃を受ける。
どうやら、先ほど放った波動は、全く本気では無かったか、ネメシスではなく、天音自身が放ったかのどちらかだろう……口調の変化から察するに後者だろうが。
……そんな事はさておき、この技に高い耐性を持つ私ですら、衝撃を受けるような威力の波動だ、先ほどの弱い波動ですら、大きな損傷を受けた天使に耐えれる道理など、ある筈が無かった。
「この状況は……撤退しましょうか」
「私が見逃すとでも?」
帰還の魔術を使おうとするメタトロンに距離を詰め、胴体に回し蹴りを入れて術を妨害する。
不意打ちでもない限り、天使長相手に接近戦は怖いのでさっさと距離をとる。
「天音……いや、ネメシス、攻撃は私が防ぐ、攻撃を続けてくれ」
「よかろう、我も奴らを見逃す気はない」
ネメシスは即座に魔力を集注し出す、どうやら攻撃には結構な時間が必要なようだ……そして天使がそれを黙ってみているわけが無い。
「皆、止めなさい、攻撃させてはなりません」
「させないよ」
周囲の天使は既に復帰している……メタトロンの能力だろうか、傷も癒えているようだ。
実際、私が本気を出せば、メタトロンを除けば、ここに居る天使を皆殺しにすることは容易い……だが、それではなんの意味も無い。
神の力には様々な物があるが、唯一神は眷属を復活させる能力を持って居る、その時に都合の悪い記憶は消去されるらしい。
……つまりここで殺しても、天使は何度でも復活する……それでは、戦う意味が無い。
実は、そんな天使を完全に殺す方法がいくつかある……一つは、その天使の存在そのものを消去する事、流石の神でも、無かった事にされた存在を復活させることはできない。
もう一つは、私の持つ暴食の力で食い尽くす事だ……この場合、喰われた者は私の一部となって生き続けている状態になり、私が死んで開放されない限り、復活は出来なくなる。
ただ、それをすると、私自身に天使を取り込む事になり、やり過ぎると神に魂を喰われてしまう可能性がある。
「ネメシス」
「ああ」
殺さないように止めるにも限界が来るが、ネメシスの準備も終わった様で、再び天秤が落下し、周囲に断罪の波動を放つ。
先ほどの続きだが、このネメシスの攻撃でも、天使を抹消する事が可能だ。
ネメシスの攻撃は物理的な被害以外に、相手の精神と魂にも強力な破壊を行っている……精神と魂が完全に破壊されれば、復活は難しい……実際には可能なのだが、それを行うには、神は自身の力そのものを削らなければならず、一時的とはいえ弱体化してしまう、それが一体ならば問題無いだろうが、この数が同時にそうなれば、優先度の低い天使は後回しになり、実質的に当分は排除できる。
「良いでしょう、神の力をお見せしよう」
三回目の波動に何とか耐えたメタトロンの周囲に、他の天使達から収集した魔力が集まり、刃となって私達を襲った。