150話 閉じられた瞳11
「今一度問おう、メタトロン、天使の言葉は神の言葉、そうだな」
「その通り、その言葉に嘘偽りはない」
メタトロンは私の言葉の意味を理解したうえで真実を語る、天使は嘘を吐けない、それをすると神の威厳というものが消滅してしまうからだ。
だが、その言葉が神の首を絞めるのだ。
「ならば良いだろう、貴様らの意思は分かった、私はその言葉を憎み、否定する」
「貴女はなぜそこまで怒っているのです?」
「貴様らは私の最も大切な人を愚弄した……それ以上の理由がいるか?」
「なぜ、愚弄したことになるのです?」
私はメタトロンを睨みつける。
「貴様はもう少し聡明だと思っていたのだがな……女の価値が子を産む事と言うのは、豊を無価値を言う事と同義だ、豊は子を産めないからね」
豊は生まれつき子を産めない……その他の機能は、ほぼ完全なのだが、彼女は卵巣に異常があり、卵子を作れないんだ。
卵子提供でも受ければ産めるのだろうが、その子は豊の子と言えるのだろうか……少なくとも豊は認めていない。
そして、そのせいで長い間苦しめられてきた豊に対して、その言葉を放つ者を、私は愛する人として絶対に許しはしない。
「……申し訳ない、配慮が足りませんでした」
「構わない、それは貴様らの言葉ではないのだから」
天使は神の代理人、天使に罪はない、罪があるのは神だけだ。
「主上を愚弄する気か!」
近くにいた天使が私に槍を向ける。
「何を言っている、私は事実を述べただけだ、それを愚弄と取るなら……それは神が根本的に腐っている証拠だ」
「貴様、言わせておけば!」
振るわれた槍を受け止めようとすると、横から邪魔が入った。
「天使よ、貴方方は、自分の都合が悪くなると、すぐに排除にかかるのですね」
それまで横で黙っていた天音だ、彼女の張った結界が、天使の槍を防いでいる……だが、この気はなんだ?
「天音よ、お前も天に歯向かうのか?」
メタトロンの言葉に天音は冷笑を返す……氷のような冷たい笑みだ。
「私はここに来た時に言いました、私の目的は全ての人間の幸福です……今回は星華さんの方が正しいと思いますし……それに、私の目的に天使の幸福は入っていませんから」
天使など、どうなっても構わないと言い放つ天音に苦笑する。
天音はこういう人物だ、最小の被害での最大多数の最大幸福……優しそうに見えるが、実際は全ての人間の幸福と引き換えなら、天使を皆殺しにする事も躊躇しない狂気を秘めている。
天音の信念は自分の為にあるものでは無いから、絶対に揺らがない……そしてそれは、私も同じだ。
「仕方ありません、皆の者、その二人を捕らえるのです」
愚かな事だ、ここで私たちを好きに逃がせば、虐殺される必要はなかったのに。