148話 閉じられた瞳9
駆けつけて来た天使達に、部屋ごと包囲され……私は抵抗せずに捕縛された。
今は少し不自由だが、何も問題はない、私は被害者である上に、別に殺した訳では無い……その上、私が本気を出せば、こんな牢屋など容易に脱走できる。
この事は豊には知らせてはいない、ただ暫く帰れないとだけ、連絡しておいた……豊がこの状況を知ったら暴走する事は目に見えている。
「何故……あの時貴女は抵抗しなかったのですか」
「するだけ……無駄だったからね」
「それは勝てないという事ですか?」
「いや、労力が無駄」
天音が下した判決は、神によって認められた事になっており、それに関する追及は無いのだが……天音は今、私の見張りとして牢屋に常駐している、分かりやすく言うと、私を理由に左遷された。
左遷とはいえ、それなりの融通は効く様で、貰ったチェスセットで、私と何度目か分からない勝負をしている。
因みに天音はチェスが強く、それなりに出来る自信がある私でさえ、三回に二回は負ける程の腕前だ。
「労力ですか……捕らえられる方が労力の無駄では?」
「こうやって……天音と一対一で話せるんだ、無駄では無いよ」
会話に間が開くのは、チェスの駒を動かす時間のせいだ。
話しながらだと、ミスしそうで、二人とも一瞬黙ってしまう。
「そうですね、私も有意義な時間だと思って居ます……チェックメイトですね」
「また負けたか……まあいいさ、それより外の情勢はどうなってる?」
「そうですね、少しお待ちください」
天音は牢屋の扉から出て行く、鍵を掛けないのは信頼の証か、単に忘れただけか判別がつかない。
なお、牢屋と言っているが、寝具はまともだし、水道もあるし、少し暗いが明かりもある……そこまで酷い環境ではない。
今、私の手足には鎖付きの枷が嵌められており、その鎖は壁に繋がっている……手足一本ごとに一つの拘束具を使って居るので、腕を左右に広げれないと言う訳では無い、絡まると面倒だが、鎖の長さも結構あり、自由度は高い。
……言っておくが、ただの金属性の鎖である以上、私の全力なら簡単に破壊できる、それをしないのは天音の顔を立てるためだ。
と考えて居ると、天音が戻って来た。
「外では貴女の処遇について、議論が重ねられているようです」
「そうだね、下手に罰を与えて、私が反撃したらどうなるか分かって居るなら、下手な事は出来ない筈だしね」
少数とはいえ、騎士団を一瞬で捕縛する相手を怒らせたくは無いだろう……普通なら手遅れな待遇な気がするが、私は割と気にしない性格だから問題ない。
……私が豊に今の状況を伝えるだけで、この国は酷い目に遭うだろうな。
「どうやら査問と言う名の、状況調査を行うだけの予定の様です」
「まあ、妥当だろうね……いつやるの?」
「こちらの非を全て暴いてから行うようなので、もう少しかかるでしょう」
どうやら、自らの非を全面的に認める事で和解に持ち込みたいようだ……私としては異存はない。
「まあ、待つのは嫌いじゃない……それじゃあ、もう一試合しようか」
「そうですね」
私が話しながら荊で駒を並べていたチェス盤に向かう。
そうやって、そろそろ三桁の後半に入ろうかと言う数のゲームを開始するのだった。