147話 閉じられた瞳8
私の一言に宴会場が静まり返る、緊迫した空気が立ち込め、周囲からの敵意がこの部屋を満たす。
「……よく、ご存じですね」
「さっきから、鎧の音が煩くて仕方ないのでね」
「なるほど」
何かの合図を出したのか、扉が開いて、騎士と思しき姿の男達が、数十人は部屋に入って来て、私を取り囲む。
……何人かが、開いた扉から逃げようとしているな、まあ、無駄だけど。
「駄目だ」
扉が開いたスペースを荊で埋め尽くしてやると、逃げようとしていた奴は面白い様に腰を抜かして座り込む。
「さて、天音こういう場合はどうすればいいのかな?」
「私に罰を決める権利はありません、それを決めれるのは天使だけです」
冷静に話す天音に、私は笑いかける。
「当然だよ、正しい罰なんて決めれるのはあいつ等だけだからね……人間の決める罰なんてのは不平等で、恣意的な物さ、でも、それでも人間が罰を決める理由がわかるかい?」
「何故ですか?」
「それは、神の罰が、常に正しいと人間が信じなかったからだ……そして、多くの人間が疑いを持ったことで、それは真実となった」
天音が悲しそうに眼を閉じる……まあ、人を信じたい天音にとっては、余り聞きたい話では無いだろう。
神は人々が信じる様に力を得る、信仰によって姿形を得た神にとって、不信はその存在を歪めてしまう……まあ、仕方のない事なのだろうが。
「天音、私は君には、人を裁くだけの公平さと、信念があると思って居る……勝手にだけどね、そこまで難しい事じゃない、奴らが罰を受けるべきかどうか決めるだけだからね」
「……私の天秤が、どちらにも傾かなかったら、どうしたらいいですか?」
「その時は……どっちかに傾けてしまえばいい、君の思うようにね……まあ、君は奴らみたいに悪用はしないよ、私が保証しよう」
今にも泣きだしそうな天音に、優しく告げると、天音はじっと私を見る。
「もし、私の天秤が……全てに罰を与え続けるような事になったなら、その時は貴女が責任を取って下さいね」
「……分かったよ、その時は私が君の罪を測るとしよう」
私と天音が話して居る間にも、周囲の敵意が膨れ上がってきているのが分かる、そろそろ限界だろう。
さて、始めるとしようか。
「天音、彼らに相応しい罰は?」
「……騎士は命令されているだけです、命を奪うべきではありません、そして彼らは……どのような不正を行って居るか分かりません、出来れば捕縛して頂けないでしょうか?」
少し甘いようにも思えるが、不正を暴く必要があると考えると、生かしておく方が便利なのは確かだね。
……面倒だけど、他でもない天音の頼みだ、やるとするか。
「分かったよ、それじゃあ……」
「誰か、そいつを止めろ!」
私が行動しようとした瞬間邪魔が入った。
馬鹿の一声で兵士が剣を抜いて襲い掛かって来る……だが。
「もう遅いよ、面倒だからね捕縛させて貰うよ」
天音と話して居る最中に、床の中に仕込んでいた無数の荊を、床を突き破って出現させ、そこに居た全員を一瞬の内に縛り上げた。
「……これは何の騒ぎですか?」
突如響いた声に部屋の温度が一気に下がった気がする。
……ようやく重い腰をあげたか、面倒な奴らだ。