146話 閉じられた瞳7
宴会場に入ると、十数人が、既に食事を始めていた。
「夜神様ですね、そちらの席にお掛け下さい」
メイド服を着た女性に指示された席に座ると、天音も私のすぐ隣に座る。
……食事の見た目は普通だが、中身はどうだろうか?
スープを少しだけ口に入れ、スプーンを下ろす、隣を見ると、天音はまだ料理に口を付けていない。
「天音、それ、食べない方が良い」
「……分かりました」
理由の説明はしなかったが、天音は素直に従ってくれる。
……そろそろ相手側から、何かのアクションがあっても良い頃だと思うのだが……どうやら来た様だ。
狸みたいな顔をした親父がやって来て、恭しく、頭を下げる。
「このような時間にお呼びし、申し訳ありません」
「こちらで通常ならば構わない」
「ありがとうございます、それで、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、好きにしてくれ」
大概、適当な対応だが、狸の言葉に私は耳を疑った。
「我々に協力していただきたい……断れば、貴女の大事な人が危険な目に遭うかもしれませんよ」
「……豊に何をした?」
「いえいえ、まだ、何もしていませんよ」
まだ、という事は、その内する気だという事だ。
……こういう場合、私が承諾した所で、豊が狙われ続けるのは明確だな。
「却下だ、豊はそれを望まない」
「ほお、彼女がどうなっても構わないと?」
「ブラフだな、豊の捕縛はまだしていないのだろう、しているのであれば、もっと強気に出る筈だからな」
豊の現在の居場所を調べる事など、大した事ではない、豊に対する、絶対の権限を持って居る以上、私に対してだけは、プライバシー等、無いも同然だ。
……まあ、普段はそこまで豊が個人的にしている事を覗いたりはしていない……豊なら見られても気にしないと思うが。
「……さて、こちらからも一つ良いか?」
「何でしょう」
「何故、私と天音の料理に毒を持った?」
天音に料理を食べさせなかった理由がそれだ、周りを見ると、スープ料理は私と天音にしか配られていない、だから、両方の皿に毒が入って居ると見て間違いないだろう。
「我々に貴女を殺すつもりはありません」
「そうだろうな、痺れ薬で死ぬ事は無いだろう」
入っていた痺れ薬は強力な物で、一口でも体が動かなくなる程度の効果がある物だった……私は暴食の力のおかげで全く害は無いが、天音が食べてたら、まずかった。
「それと、理由は聞かないが媚薬も少々入って居たな」
正確には催淫作用のある植物だ……こちらは少量かつ効果の低い物だから、何故入って居るのかよく分からない、天音が全部飲み干しても問題ないんじゃないかって程度だ。
「最後に一つ、質問をしよう」
「なんでしょうか」
優位に立った状態で、切り札を出す。
「先ほどから、この部屋を完全に包囲している、全身鎧を着込んだ集団についてご存知ですね?」
もはや、質問ではない、この国の為になる行為なのは癪だが、天音の為に屑を一層してあげるとしよう。