145話 閉じられた瞳6
「申し訳ございません、朝食会にお招きされているので、来ていただけませんか?」
扉がノックされる音で目を覚まし、時計を確認する。
……時計の時間が狂っている可能性を考えて、ダンジョンメニューの機能で確認したが、間違っていないようだ。
「まだ一時半だよ、日付変わったばかりじゃん……それに晩餐会ならともかく、朝食会とは珍しいね」
「すいません、色々と忙しいモノで、こんな時間にしか、まとまった時を得られませんでした」
「まあいいよ……どうせ目が覚めたし、行かなかったら君が面倒な事になるんでしょ?」
「……」
そう言って布団から出る……この時間帯は少し肌寒いので、黒一色のパーカーを羽織り、銀色のファスナーを上げて、扉を開ける。
「それじゃあ行こうか、天音ちゃん」
「……その呼び方は、どうにかなりませんか?」
「ああ、呼び捨ての方が良かった?」
冗談半分に行ってみると、驚いたことに、首肯が返って来た。
……半分は本気だから構わないけど。
「はいはい、それで天音、今回私の事を呼んでいるのは、この国の支配者たち?」
「……よく分かりましたね、ですが、あの人達はそう呼ばれるのを嫌っています」
「あはは、そんなの偽善みたいなものだよ、支配者に変わりは無いさ」
「……否定はしません」
因みに、予想出来た理由は簡単だ、これは天使たちのやり方じゃない、そして天音を使い走りに出来そうな奴が他に思いつかなかっただけだ。
天使のやり方はもっと強引かつ、それと気付かせない様な、質の悪いやり口だ。
「それで、そいつらはどんな奴なの?」
「……面倒な、狸の集団ですよ」
「……やっぱり、バックレても良い?」
「駄目です、私一人であれの相手はしたくありません」
……心の強い天音がここまで言うって……一体何をしたんだよ、そいつら。
「無駄に権力を持った、セクハラオヤジみたいな者です……その上言葉に含みが多いので、解読に神経を使わされます」
「なんでそんなのが、宗教国家のトップに居るの?」
「知りませんよそんなの、天使は狸以上に難解な言い回しばかりですし、何考えてるのか何て分かりません」
……段々、被ってる仮面にヒビが入ってきてるね。
「天音、キャラ崩れてるよ」
「ああ、すいません、正直関わりたくないんです……普段、天使からの直接の命令以外、そもそも耳に入れないように引きこもってますし」
……ああ、天音はやっぱり天音だ、無駄に心が強い分、常人なら逃げ出すような場所でも、何とか耐えてしまっている。
……私だったら三日後には、逃げ出すか、反乱を起こしてる。
「ああ、着きましたよ」
話しながらも進んでいると、広い宴会場の扉の前に着いてしまった……出来ればずっと、天音と話して居たかった。
……なんだか、入りたくなくなるオーラが滲み出てるのは、気のせいだと言う事にしておきたい。
「……本当に入らないと駄目?」
「星華さんは客人なので、別に参加は自由ですが、多分私の精神が持ちません」
……冗談では無く、本気で言っているのが伝わって来て、より気が重くなる。
「流石に客人の前では、少しは大人しくなる……と思うので、きっと、多分大丈夫です」
「……なんか、不安な前置詞が沢山くっついてるんだけど」
「あの、星華さんは随分と美人なので……」
「……どうなるか分からないと」
これほどまでに、自分の容姿が恨めしいと思った事は初めての経験だ。
「……入ろうか」
「……はい」
なんだか、どんよりとした気分で、金属の取っ手を掴み、両開きのドアを押し開けた。