141話 閉じられた瞳2
メールの内容を話すと、案の定豊が私に付いて来ようとするのを、子一時間掛けて宥め、一人でダンジョンを後にする。
「星華ちゃん、危ないことはしないでね」
……出発前にそう言われたものの、相手が相手だけに、穏便に済むかどうか怪しいな。
集合意識を持つ者達の中で、取引を持ちかけるメールを送る権限を持つとなると、かなり高い階級である可能性が高い……それにメールの送り主の名が【M】、私の考え付く上位の天使で、頭文字がMの天使は二人。
一人は天軍を率いる者、ミカエル。
そしてもう一人は、最も神に近しいもの、天の代理人、メタトロン。
どちらも非常に力のある天使であり、神に背く者には一切の情けを掛けない裁定者だ。
……だが、だからこそ、その発言力は強く、彼等が私の事を認めたのであれば、これ以降天軍に煩わされる事は少なくなるはずだ。
考えながらも歩き続けて、ふと気付く。
普段なら、私に怯えながらも様子を伺う、野生動物や魔物が居るのだが、今日に限ってはその気配が一切しないのだ。
……天軍が根回しした様だな、魔に属す私であれば怯えながらも様子を伺う魔物も、天に属する勢力が、浄の力で清めた後には寄り付かないのだろう。
まあ、一度浄化されても、数日もすれば薄れて元に戻るだろうけど。
天軍の根回しもあり、特に障害なく聖神国に到着した。
門番に私の名を伝えると、直ちに門が開けられ、神殿に向かうように促された。
その神殿というのが、この国の政治などが行われる場所で、通常の国の王宮や、国会に相当すると考えて問題ないだろう。
「お待ちしておりました、夜神星華様」
神殿の前に到着すると、昔の知り合いが迎えてくれた。
「……君がこの国に居るとはね、いや、意外でもないか」
唯一神の政治は厳しいものだが、筋は通っている、彼女ならこの国に居ても可笑しくないとは思っていたけど、実際に会うとやはり驚いてしまう。
「私の事は後にして下さい……主がお待ちしております」
「わかったよ、客として招かれたのだから、こちらも礼を失するつもりはない」
神殿……といっても、パルテノン神殿のように開放的ではなく、複数の教会施設の中の一つの、巨大な礼拝堂といった建物の扉の前に立つ。
長閑な風景に天使が舞っているレリーフを眺めて、意を決する。
……扉を開けると、無数の目が私を覗き込んでいた。