139話 名の在処14
「アリー、成果を聞かせて」
私の言葉に頷いたアリーが、金気の魔力を操り、砲丸投げに使う程度の鉄球を創り出す。
……私の魔力をベースにしているから、他の属性の様な補正は全くない筈だが、オートマタである以上、金気との相性が良い事は想定通りだ。
アリーに頼んでいた事、それは金気を使う魔術の訓練だ。
私には適性が無さ過ぎて、訓練すら思う様にいかないから、その代わりとして、アリーに習得して貰う事にした。
そもそも、エネルギー切れとはいえ、園田の力の大半を奪った上であの程度なのだから、私が努力するだけ無駄だと言えるだろう。
それにしても中々の結果だ、周囲の金気からこれだけの物を生成できるのであれば、通常の術であれば扱えるだろう……金気が必要な術式を扱えるから、研究の幅が広がる。
「アリー、ありがとう……今後も練習を続けておいて」
いつか必要になる時が来る……それまでに金気を用いた複雑な大型術式を扱えるようになって居て欲しい。
アリーの頭を優しく撫でて居ると、首元が湿っている事に気付いた。
「……そういえばお風呂に入って無いね、一緒に入ろうか?」
そう問うと、アリーは頷く。
豊達に一声かけてから、ダンジョンの風呂場に向かう。
最初は城にある風呂の魔道具を再現しようとしていたが、結局ダンジョンの機能で温泉を造った。
アリーを自作した椅子に座らせて、綺麗で手触りの良い金色の髪を洗う。
……人形の様な容姿で、実際半分は人形なのだが、触れた肌は温かく、彼女が生きた存在だという事を実感させる。
とは言っても、別に体温がマイナスになっても死なないし、逆に五十度あっても問題ない、アンドロイドの様な肉体と魔術的防御の結果だが。
「……少し髪が伸びてるね、邪魔だったら切ろうか?」
首肯、どうやら切って欲しいようだ。
櫛を使って髪を梳き、風呂場に常備しておいた銀の鋏で伸びた分を切る。
元々、長髪だからさほど切ってはいないが、耳と目を少し邪魔していたので、その分だけ切っておいた。
「ごめんね、こういう事に気付けなくて」
アリーは首を横に振るが、私は苦笑する。
「忙しくて気にする余裕が無い……なんて言い訳はしないよ、私がその気になれば時間を作るのは簡単だからね、こうやって触れ合う時間を造らなかった私が悪いんだよ」
勿論、普段から皆とは話しているし、触れ合ってはいるが、一対一になる相手は殆どが豊で、基本的に色々な仕事を任せているアリーとは、余り構ってあげれていない。
「ねぇ、アリー」
湯船の中で呼びかけると、首肯が返って来る。
「私には目的があって、それはこの世界の殆どの生命に苦難を強いる結果をもたらす事になる……それでも、アリーには最後まで付いて来て欲しい」
「はい」
答えが返って来て、驚いてアリーの方を見る。
彼女は淡雪の様な頬を赤く染めて、そっぽを向いていた。
私が抱き着いて頭を撫でると、ますます恥ずかしそうにしている。
「ありがとう」
彼女が味方してくれるなら、私はマーガレットの意志を守る為、この世界の為に私に出来る事をやり遂げよう。
……その行為によって私に向けられる憎悪も、痛みも、全てを不屈の意志で耐え抜いて見せよう。