136話 名の在処11
「アンタは誰に唆された?」
「どういう意味だ」
「アンタは結構堅実な性格だったと記憶している……それが私みたいな、勝てるか怪しい相手に勝負を挑むとなると、誰かに唆されたとしか思えない」
私の思いつく限りでは、そんな事をするのは二人しか居ない。
一人はニャルラトホテプだ、アイツならやりかねない、だがアイツは園田の事は知らない筈だから除外できる。
「……アザトースだろう」
「ああ」
答えは肯定、そしてアザトースの考えが手に取る様に分かる自分に嫌気がさした。
『星華ちゃん、そろそろエネルギーが切れそうだよ』
豊の呼びかけで、我に返る。
『そうだね、もう大丈夫そうだし、元に戻すよ』
ほぼ呟くような声で命令を発する。
「豊、私への憑依を解いて、元の体に戻りなさい」
命令の効力によって、豊の魂が私の体から抜けていく。
一つの体に二つの魂を入れた状態は負担が多かったので、これで少しは楽になる。
再び園田への質問を開始する。
「何故私を狙った、アンタの目的は何だ?」
「元の世界に帰る事だ、その為には神の協力が居る」
なるほど、神をこの世界に呼び込み、帰還するための扉を作ってもらうために、有能な巫女である豊の力を欲しかったのか。
そうだな、私の目的と相反しているわけでは無いから、その時になったら協力するのも悪くないな……だが。
「何故戻りたがる、この世界の方が生きやすいんじゃないか……それにどうせ行くなら、好きな時に、両方の世界に行き来出来るようになる事を目指す方が良いと思うが」
「そんな事は不可能だろう」
園田の言葉に私は笑う。
「出来るさ、現にアザトースはやっている」
「あれは神ではないか」
「そうだね、でもアイツは人間に生み出された神だ」
その言葉に園田は固まる……どうやら私の考えている事に思い至った様だ。
「……デウス・エクス・マキナ」
園田の言ったそれは、機械仕掛けの神を意味する言葉で、物語などが行き詰った時に、急に出て来た神格によって物語が解決される事を表すのに使われたりする。
分かりやすく言うなら、夢オチ、絶体絶命の状態で神が夢だった事にしてしまう様なストーリーを想像すれば分かりやすいだろう。
それは人によって作られた存在が、都合の悪い状況を変えてしまうという事。
私の狙いはデウス・エクス・マキナの創造、そしてそれを支配する事だ。
私にはそれを出来る力があるのだから。
これはアザトースの目的とは違う為、アイツの強力は望めない。
だが、やる事に変わりは無い。
「さて、もう聞く事は無い」
「なら、一つ聞いても良いか」
「答えるかは内容による」
「お前、合気道を使えるのか?」
その質問に少し驚いた、それに気付かれた経験は無かったから。
「何故分かった」
「お前と打ち合う時、体が様々な方向へ、吹き飛ばされるような感覚があった、それで思い至った」
「ああ、私の体術の基本は合気道と柔術、そして私はそれを武器を通して使用できる」
武器の打ち合いを介して、受けた力を直接相手の体に返す、半分本能で動いてるから細かい説明は出来ないが、そういう事だ。
「なるほどな、強い訳だ」
「さて、アンタの力の一部を貰うとしよう……なに、再起不能にはしないさ」
暴食の力を練りこんだ魔法陣を、園田の足元に作り出す……戦闘中に使うのは不可能な緻密さだが、その威力は凄まじい。
発動したその魔法は、園田の体内に侵入して、その魔力と神格の一部を奪い取り、私の中に取り込まれる。
純粋にエネルギーにするのとは違う、奪い取る魔法。
それは最早【強欲】に匹敵する力だ。
そして園田が意識を失ったと同時に、アザトースが終了宣言をした。