134話 名の在処9
転移してきた私に、園田は驚くことなく太刀を構える。
私が来ることは園田も分かって居たのだろう、辺りの探索をしなかった事から、この部屋に出口が無い事は察しているのだろう。
「……来たか」
「なあ、降参する気は無いか?」
一応、彼が選べる選択肢を提示してみる、それを選ぶ筈が無い事は承知の上で。
「この部屋には出口が無い、このまま私がこの部屋から去れば、実質的に負けが確定するだろう……ここで降参しないのであれば、アンタはその力を失うだろうね、さあ、どうする?」
その問いを園田は笑い飛ばす。
「あり得んな、アザトースの奴が勝利宣言をしていない以上、この場所でお前を倒せば、儂の勝利になるということだろう……ならば、試してみるべきだろう」
「分かった、そこまで言うなら仕方ない、それじゃあアンタには……ここで一度死んで貰うとしようか」
園田を取り囲むように地面に魔法陣を描き、荊を召喚して絡みつかせる。
その攻撃を受けた園田の対応も早く、全ての荊を一太刀で切り捨てて、私へと向かって来る。
首に向かって迫る太刀を左手のナイフで防ぎ、右手の匕首で横薙ぎの斬撃を放つ。
それすらも後ろに下がって回避した園田が放つ火球を、豊が水の球で打ち消した。
……ここまでの攻防で分かる、こいつは相当強い、そこらの存在では勝ち目が無いだろう、だが、負ける事はありえない。
『星華ちゃん、大丈夫?』
『問題ない、豊は援護を』
念話で話せば、会話が一瞬で済む上に、イメージ次第では映像を伝える事も出来るから優秀だ。
「その気配……稲神か」
「正解、今、豊の魂を私の身に憑依させている……実質的に二人が相手だ」
ばれても問題は無い、どうせ対処法など存在しない。
「それじゃあ、殺しにいくよ」
距離を詰め、匕首での連撃を行う。
一撃に込める力は少ないが、速度に重点を置いた攻撃は反撃を許さない。
豊もそれに合わせて、氷の刃を放って、私の隙を埋める。
背後に出現して、後退を阻害する荊も良い働きをしてくれる。
あと少しで届くと思った所で、強烈な炎を出され、一度下がらざるを得なくなる。
炎自体は防いだが、園田の近くに複数の火球が浮かび、邪魔をし始める。
……ここまでは想定内だ、まったく問題ない。
『豊、力を借りるね』
『分かった』
豊の神格の力を借りて、水を触手の様に操り、火球を打ち消す。
この場所は湖に浮かぶ島を模したつくりになって居るから、水なら幾らでも用意できる。
「無駄だ、いくら消しても、儂を倒さねば、終わらぬよ」
園田の周囲の火球が、より大きくなって再燃し、伸ばした水の触手も、土気を宿した太刀によって魔力を打ち消されてしまう。
そして炎を纏わせた太刀がこちらに向けられる。
私も匕首に冷気を纏わせ、対抗する。
同時に踏み出した両者の刃が交差し、周囲に爆風が吹き荒れた。