132話 名の在処7
「……全然ワイヤーなんて見えないけど」
敵を撃破している罠の説明をしたが、正直仕掛けた私自身ですら、よく見ないと分からない程、見辛い配置になって居る。
「あの部屋は意図的に薄暗くしてあるからね、光の反射で見つける事は難しいと思うよ……あ、現物を見せようか」
そう言って、試作品のワイヤーをアリーに持ってくるように頼む。
彼女が、一分もせずに持ってきたそれは、髪の毛程の細さになった金属の糸だ。
「下手に触ると指切れるから気を付けて」
「危険ですね」
アリーも、ここに運んでくるために、革製の手袋を使う必要があるのだ、設置してない状態でそれなのだから、ピンと張られた状態での切れ味は、相当なものになる……というか、なって居る。
「……あれは、ダンジョンバトルが終わったら回収しておくよ、忘れた頃に自爆しそう」
私はゲーム等でも、自分で仕掛けた罠で自滅するタイプだ、敵にやられた数より、自爆した数の方が多いゲームもある。
大方、敵と戦ってない時は、気が抜けて居るのだろう。
「でも、この仕掛けもきっと突破される」
私の言葉に輝夜が尋ねる。
「ゴーレムでの突破ですか?」
「いや、あのワイヤーは対ゴーレムの仕掛けがある」
今度は豊が首を傾げる。
「そんなの出来るの?」
「ゴーレムは金属や土、石で出来た人形だ……でも普通、土で人形作っても直ぐに壊れるでしょ?」
「……そうだね」
「それを壊れないようにするの為に、魔法で固定してるんだよ、これは金属とかも、同じだね」
まずゴーレムについて簡単に説明しておいた。
「それで、あのワイヤーには、その手の魔術を阻害する魔術を仕込んである……だから、ゴーレムでも、あのワイヤーが触れた部分は非常に脆くなって壊れやすくなるんだよ」
それに、その妨害魔術の効果によって、元の素材以上に弱くなるしね、と追加する。
「それでは、どのように突破されると、思いますか?」
輝夜の言葉に、私はダンジョンの機能によって映し出されている、モニターの一つを指さす。
そこに居た筈の園田が、輝夜が目を話している間に、居なくなっている。
「とうとう動き出しましたか」
「流石に、自分が出ないと進めないと思ったんだろうね」
最短ルートでダンジョンを走破してくる園田に、一撃だけ見舞うとしよう。
そう考えて、用意しておいた、変わった形の短剣を手に取る。
「それじゃあ、ちょっと行って来る」
そう言って、園田の少し前に転移する。
「……お前自身が来るとはな」
私が突然現れた事に驚いた様子は無い……そもそもダンジョンでは、この程度なら珍しい事ではない、同じ結果を出す方法は幾つも用意されている。
「いや、まだ、ボス部屋じゃ無いからね、待ってるよ」
そう言いながら私は、隠し持っていたナイフを逆手に持って切り付ける。
「なっ!」
園田は、凄まじい反応速度で太刀を抜き、短剣を受け止める。
だが問題は無い、私がそのまま短剣を太刀に擦こすり付ける様に動かすと、短剣が触れて居た部分が、削り取られ、その太刀は砕け散る様に折れてしまった。
「それじゃあ、ボス部屋で待ってますよ」
そう言って再び転移を発動して、マスタールームへと戻った。
「星華ちゃん、それは?」
豊の質問に、短剣を見せる。
その短剣の刃は、まるでノコギリの様に深い溝が刻まれており、ナイフとしての性能は低くなっている。
「これは所謂いわゆるソードブレイカーと呼ばれるタイプの武器で、刀剣類を破壊する事に特化したつくりになって居る……これは自作だし、実物見た事ないから、ほぼイメージだけど、試験運用では十分な性能を発揮してたから、使ってみた」
相手の剣と打ち合う時に、相手の剣の刃を、刀身に刻まれた溝を使って、折ったり、削り取る様にして破壊する為の武器なのだが……実際はまともに使える人が少なく、普通の剣を使った方が早いという、微妙な評価御を受けて居たりする。
「さて、園田はどうでるかな?」
モニターで確認すると、園田は少し考えて居た様だが、何かを思い付いたようで、短い呪文を唱える。
……次の瞬間、辺りに落ちて居た、太刀の破片が集まって来て溶け合い、園田の持って居る太刀を修復していく。
「星華ちゃん、あれなに?」
「魔法、だろうね、金・と・火・の気を扱って再生してるみたい」
「……厄介ですね」
「そうだね輝夜、あれじゃあ武器破壊が通用しない」
問題はそれだけじゃない、もっと困った問題がある。
「私の荊・は木・気・を中心とした魔法……色々な属性を付与出来るけど、根本は同じ、そして木気は金気に負ける」
金に勝つのは火なのだが、私の能力では、園田の持つ火気に対抗できるか分からない。
となると、少なくとも火気に対応でき、金気にさほど影響されない水気を使う必要が有るだろう。
「星華ちゃん、援護しようか?」
豊もそれを悟った様で、提案してくるが、首を振る。
「そうなったら園田は豊をメインで狙って来る……無理でしょ?」
「うん、直接狙われたら勝てる気しない」
「だから、少し協力して」
そう言って、その内容を豊の耳元で囁く。
それを聞いて頷く豊の頭を、髪を手櫛で梳く様に、私は優しく撫でた。