130話 名の在処5
入り口に仕掛けておいた罠によって、突撃してきたゴブリンが一瞬で殲滅される。
「……もうこれだけで大丈夫なんじゃ」
豊はそう言うが、そう甘くは無い。
「トラップも、全面に敷き詰めてないから、慎重に行けば、突破は出来る筈」
そもそも入り口だけで、勝利出来る訳が無い。
第一、その先に仕込まれた罠が無意味になるのは悲しいから、それで良いのだけど。
「ん、ゴーレムか、考えたね」
そもそも土の塊でしかないゴーレムならば、多くの罠を無視して突破できるだろう。
そう思いながら見て居ると、ゴーレム達は、壁際に移動し、自らの体を使って弓矢の射出口を塞ぎ始めた。
「……なるほど、その手があったか」
ゴーレムは土だ、当然それは壊れても変わらない、例え矢の損傷によってゴーレムが壊れても、その体は矢を防ぎ続けるだろう。……ここには無いが、奥には射出口を塞がれた時の対策をしておいてよかった。ここにそれを置かない理由は簡単、一度成功した戦法を、もう一度使ったときに失敗すれば、動揺させれるからだ。
「星華さん、他のトラップも対策されました」
「……まあ、予想通りだね、後続の被害を軽減するためにも、一つ一つの罠に対策していくのは正しい」
だが、正しいからと言って、攻略出来るとは限らないのが、このダンジョンだ。
そのまま進軍してくる敵勢力は、スケルトンを使った、どうでも良い交戦を行いながら進み、次のトラップ地帯へと到達する。
「え、星華ちゃん、何この直線通路?」
「見ての通り、ただの細長い直線の通路、一番奥の横の壁に扉がある」
狭い地帯に仕込まれた、高密度のトラップは、非常に高い殲滅能力を誇る筈だ。
「輝夜、敵が、通路の半分程度まで来たら、トラップ起動スイッチのAを発動して」
「はい……発動します」
「あ、やば!」
私は急いで、監視映像と一緒に流れて来る、現場の音声のボリュームを下げる。
そして、輝夜がスイッチを入れた瞬間、部屋を暴風雨の様な攻撃が襲う。
……ミスった、耳が痛い、このトラップの試験運用の時に、凄まじい音で頭が痛くなったのを忘れてた。
音量は下げたが、間に合わなくて少し食らってしまった。
「星華ちゃん、コレナニ?」
「アロースリット、さっきの部屋にも仕込んでた、矢を発射するトラップ」
「……煩くない?」
「数が多いからね」
この通路に仕込んだ罠は簡単、アロースリットを通路の正面の壁に取り付けただけだ。
前方から迫りくる矢の嵐を突破するのは至難の業だろう。
「星華ちゃん、一体何個しこんだの?」
「百二十台」
この罠の、再発射までのクールタイムは一秒、だから、タイミングをずらして使う事で、機関銃の如き連射能力を得て居る……因みに、単純計算で60分の1秒に、二発の矢を発射出来る仕組みになって居る。
「突破方法ってあるの?」
「金属製のゴーレムを盾にしても良いし、全身を隠せる巨大な盾を持って進んでも良い……豊なら、トラップ自体を氷で封印すればいい」
分かりやすく言うなら、盾を使ってごり押すのが一番早い。
「星華さん、製作者の通りの方法で突破されています」
モニターに目を移すと、アイアンゴーレムを盾に、リザードマン達が、扉に近づいて行っている。
「あのリザードって、火に耐性あるかな?」
「無いでしょうね」
まあ、相手のダンジョンの性質も分からない状態で、特定の属性に耐性のある魔物を召喚はしないか……それなら、問題ないな。
「放って置いて」
「解りました」
「あ、二人とも、耳を塞いだ方が良いよ」
そう言って、人一倍耳の良い私は、昼寝用の強力耳栓を付ける。……流石に音声を完全に消すのは不安がある。
アイアンゴーレムとリザードマンは順調に進み、アイアンゴーレムを盾に蜥蜴が扉を引き開ける……その瞬間部屋の中から爆炎が現れれて、通路全体を飲み込み、通路の外に待機していた軍勢にまで襲い掛かる。
「バックドラフト現象……破壊力は抜群だよ」
「バックドラフトですか、火災時に発生する物ですね」
高温状態で可燃性の一酸化炭素ガスが充満している上に、酸素が少ない部屋の扉を開けると、ガスが急激に酸素と結びついて、爆発する現象だ……今回は、通路の酸素濃度を通常より高める事で、より威力を高める事に成功している。
「あの部屋は必ず通る必要があるから、絶対に発動させないといけない、そして通路に仕込まれたアロースリットによって、ある程度の戦力を投入しないと、扉まで到達するのは難しい」
所謂、初見殺しである。
「星華さん、本命が来たようです」
いよいよ園田が直接入って来たようだ。
「分かった、基本はこのまま続行で、出来る限り雑魚を減らす様に罠を使って」
「良いのですか?」
「園田に罠が効くとでも?」
「そうですね」
恐らく園田の相手は私がしないと駄目だろう……まあ、勝つ方法は既に仕込んであるから、何とかなるだろう。
「……それじゃあ、隠れ住んでただけなのに、村を襲った鬼と勘違いされて攻められた鬼の気分で、桃太郎退治でもしますか」
「星華ちゃん、締まらないね」
「そうだね」
まあ、何とかしてみせるとしよう。