129話 名の在処4
ダンジョンに帰って来た私は、開始までの十分の間に最後の準備を行う。
「ねえ、星華ちゃん……私の能力って何?」
作業中に横から豊が聞いて来る、普段は私の邪魔になる事はしないのだが、流石に気になるのだろう。
「……自分の職業言ってみて」
「一応巫女やってるけど……」
あらかた準備を終えて、豊の方を向く。
「それを理解して居るなら話は早い、理由は知らないけど、豊は割と神に好かれているよね」
「まあ、神格の権利を貰う程度には……」
「それに豊は巫女だ、本来巫女は神の依代ともいえる存在……言ってみれば、豊は神をこの世界に連れて来る事が出来る能力があるって事」
正直、その才能は危険な物だ、殆どの神が、力に制限を掛けられているこの世界で、完全な神の力を行使できる存在を連れて来る事が出来るのだから。
「神を体に呼び込める……その間って、記憶無いよね?」
「どうだろ、神の性格次第かもね……最悪な性格だと、意識も思考も出来る状態で、ジェノサイドとかあり得るかも」
例えそうなったとしても、ベースの体が豊である以上、止めれない事は無い、私の奴隷である以上、命令されれば、意志とは別に体が反応するからだ。
「星華ちゃんは出来ないの?」
言われて少し考える……微妙な所だ。
「出来ない事は無いと思う、波長の合う神が対象で、お互いの合意が無いと厳しいだろうけど」
精神系への抵抗が無駄に高い私を、依代にするのは難しいだろう……そうなった時は凄まじい力を発揮できるだろうが。
「ああ、スペックが高すぎて、一部の人にしか使えない感じか」
「まあ、そんな感じかな」
「あれ、星華ちゃん、罠の発動が全部手動だけど、大丈夫なの?」
ダンジョンの罠は全て自動発動だが、手動での発動に切り替える事も出来る……あれだけの数の罠を全て管理して、手動発動するのは常人には無理だろう、そう常人には。
「今回は心強い見方が居るからね」
そう言って、部屋の隅に置いてあるベットを見る。
「輝夜、狸寝入りは分かってるから、さっさと起きて手伝って」
体感時間をゆっくりに出来る輝夜ならば、状況を判断してトラップを発動させることが出来るはずだ。
「……わかった、後で甘い物欲しい?」
まだ眠いのだろうが、今回は働いてもらう。
「後でケーキ焼いてあげるから、頼むよ」
「はい、何をすればいいですか?」
……普段の口調に戻った、私は寝起きの、素が出ている喋り方も、好きなんだけどな。
「トラップの発動権限を貸すから、園田と一緒に攻めて来る、モンスターの数を減らして」
「……本人は、狙わなくて良いのですか?」
「逆に聞くけど、狙ったとして、成功すると思う?」
「そうですね、理解しました」
準備時間が終わる直前に、輝夜に声を掛ける。
「輝夜、私の体感時間も、ゆっくりに出来る?」
「出来ますよ……星華さんが受け容れてくれるのであれば」
……簡単には出来ないのも、魔法抵抗の弊害か。
「じゃあお願い、抵抗はしないから」
輝夜の能力を受けて、周囲の時間の経過がゆっくりになる、それでも言葉などは、普通に認識できるので意思の疎通に不便は無い。
「それじゃあ、ダンジョンバトル開始だよ~」
アザトースのアナウンスにより、ダンジョン同士の入り口が繋がり、敵が雪崩れ込んできた、恐らく大量の魔物が居ると思ったのだろうが、待って居るのはトラップハウスだ。
まずは手始めとして、左右の壁に取り付けたアロートラップ、上から落ちて来る吊り天井、地面から生えるスパイクトラップを発動させた、